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『剣遊記T』

第五章 国境突破は反則技で。

     (20)

 店の外まで見送りに出ると、彩乃が可愛らしい仕草で孝治たちに向け、左手を大きく振った。

 

「だんだんおーきん(長崎弁で『どうもありがとう』)♡ じゃあねえ♡ そしてぇ、未来亭で待っとくけんねぇ♡」

 

 ――と次の瞬間、彩乃の姿がパッと、大きなコウモリに変化{へんげ}した。

 

 それこそ時間にして、わずか一秒さえもかかっていない。さらに具体的な表現をすれば、翼の端から端までが、大人が両腕を伸ばした状態と、ほぼ同じ大きさ。

 

 まさに大型のコウモリであった。

 

「おやまあ、彩乃はんって、ヴァンパイア{吸血鬼}でおましたんどすか★★★」

 

「こりゃビックリ仰天、タコ焼き百人前やで☆☆☆」

 

 いっしょに見送りに出ていた美奈子と千秋が、そろって瞳を丸くしていた。

 

『こ、これって、あたしも知らんかったっちゃよ☆★☆』

 

 涼子も同じく、瞳が真ん丸だった。ここで友美が、十八番{おはこ}である解説を始めてくれた。

 

「そうなんですっちゃよ♡ 彩乃ちゃんって、東ヨーロッパのトランシルヴァニアから来日した伯爵さんの血筋ば引いとるらしいって、未来亭のみんなは、よう知っちょりますけ✍ でも、半分以上はふつうの人間の血になっとるっちゅうのもあり、なんですけどね♡♥」

 

 孝治もひと言、苦笑気分で付け加えた。

 

「やけん、ヴァンパイアのくせして、昼間でもいっちょん平気っちゅうわけたいね♡ おかげで連絡係に店長から使われまくっちょるんやけど、ほんなこつそれでええとやろっかねぇ?」

 

「ほんま、いろんな娘はんがおりまんのやなぁ……未来亭には☁☀☁」

 

 美奈子が感慨深そうにささやいた。この間にも彩乃は翼を大きく羽ばたかせて空高く舞い上がり、やがて北の方向の雲の彼方、小さな点となっていた。


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