『剣遊記 超現代編U』 第五章 MAX級ハプニング! 運動会がやってきた。 (12) おれはこのとき、ふと、とんでもない妄想をしていた。孝治には悟られないよう、おれの脳内だけに留めておいて。
それはもしかして、孝治を女性に変えたものは、おれたちの心の奥底に隠れている潜在願望だったのではないだろうか――と。なにしろおれたちの学校は工業高校。典型的な男ばかりのサバイバルワールドなのだ。そこにたとえ一輪だけでもいい。可憐な美しい花が、ひとつだけでも咲いてくれたならば――とも。
「ねえ秀正、なに考えてんの?」
そんなとんでもない思考に陥っているおれの顔を、孝治がいきなり、真正面から覗き込んでくれた。
「うっ!♋」
やっぱり可愛らしかった。おれってもしかして、孝治に本気で惚れ始めているのかなぁ――もしそうだとしたら、恋のライバルはまさに、港南工業高校の全生徒たちだ。それは間違いない。
そこまで考えながら、おれは自分の顔が赤くなっているのを承知で、わざとうすらとぼけた返事を孝治に戻してやった。頭を左右にブルブルと振りながらで。
「いや……別に☕」
「そうだね♣☺」
まるで自分の未来をこれまた承知しているのか、孝治はさっきから変わらない笑顔をおれに向け直してくれた。
「人類が、誰ひとり経験したこともない体験を、ぼくは思いっきりに体験してんだよなぁ♥ でも、今さらくよくよするなんてぼくが一番嫌いなことだから、このままで人生を思いっきりに楽しませてもらうよ☀☆」
「おれもそれを応援するよ✈✌」
孝治がここまで決心を固めているのなら、おれにももはや、言うべき言葉はこれしかなかった。
「とにかくまっすぐ生きることが一番大事なんだから、それにみんな孝治の味方なんだから、なんにも遠慮なんかしないでとにかく生きてくことが、一番肝心かなめなんだよなぁ✊✌」
「うん、ありがと✌☺♡」
このときも孝治の超明るい微笑み顔は、今のおれには、とても超まぶし過ぎていた。そこへこれは偶然なんだろうけど、終わり間際の、とどめのハプニング発生!
「うわっち!」
なぜか孝治がいきなりなにかに、足を引っ掛けたらしい。突然おれの目の前で、見事な転倒をしでかしてくれた。
「うわっち! うわっち!」
「わわわわわあーーっ!」
真にもって恒例ながら、孝治がおれに向かって、まっすぐ倒れ込んできた。まさに天然ドジっ娘の、本領発揮の場面だった。 (C)2018 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |