『剣遊記 超現代編U』 第五章 MAX級ハプニング! 運動会がやってきた。 (1) 季節は早くも秋である。我らが港南工業高校にも、運動会のシーズンがやってきた。
今では春が定番の学校運動会であるが、我が港南工業高校では頑{かたく}なに、秋での開催にこだわっていた。
まあ、一生徒のおれとしては、たかが運動会。秋でも春でも、どちらでも良いのだけれど。
そんな自分自身の私的な意見は棚の上に置いて、各種目の選手決めがクラスの討論で、カンカンガクガクと行なわれた。
二人三脚。障害物競走。そして足の速さが勝負となる、百メートル走やクラス対抗リレーなどが、続々と決められていく。
これらの中で、我がB組の面々が最も熱くなる種目があった。これはこの学校だけに伝統的に伝わる競技なのだが、クラスで一番体重の軽い者をバトンにして、代わる代わるに交代でおぶって走る、種目名も単純な『おんぶ競争』なのである。
おれが思うに、このようなふざけた競技、我が校の古い時代に、いったい誰が考案したのやら。
「はいっ!」
このとき、伝統を疑問に思うおれにも予測のつかなかった、意外な展開が起こった。なんと孝治が、はっきり大声を出して右手を挙げたのだ。
関係のない余談であるが、ヤローどもの黒い学生服{ガクラン}の中で、孝治のブレザー風女子高制服は、実に際立って見えていた。
とにかくその孝治が、開口一番に言い切った。
「ぼく、借り物競争に出ます!」
「なるほど✌」
おれは思わず、口に出してつぶやいた。それは借り物競争であれば誰とも組まないで、一応ひとりで走れる格好であるからだ。きっと、まだ女性の体に完全に慣れきっていない孝治としては、あまり人とはペアになりたくないのだろう。
だけど当然の成り行き。孝治の思いは、あっと言う間に却下の憂き目となった。理由は言わずもがな。
「いかん! おんぶ競争にはぜひとも、体重が一番軽いやつを選抜して出さにゃならんのだ!✊ そのためにも孝治、おまえを目玉として出場させんといけんのじゃい!」
和志がいきなり、話に横道を入れやがった。しかもそのとたん、組中のヤローどもの目線が一斉に、当たり前ながら孝治ひとりに集まった。
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