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『剣遊記 超現代編U』

第四章 史上最大級の危機襲来!

     (11)

 でもって朝である。

 

「ふぁ〜〜あ〜〜

 

 予想どおりにおれたち全員、一睡もできなかった。見回せばおれも含めて全員、起床の連絡を待つ必要すらなく、早くも頭を活性化させていた(実はひと晩中)。また当たり前ながらおれも含めて、全員両目を真っ赤に充血させてもいた。

 

 そんな中に、孝治もいた。今さらながらに説明をするが、孝治は帆柱先生から男子とは別の部屋にするか――とも言われていたらしいのだが、本人の希望で、おれたちとの同室を望んだと言う。

 

 要するに、気分はまだ男子生徒のままでいたいのだろう。野獣ぞろいのB組の面々(おれも例外にあらず)ではあるが、孝治に本格的なチョッカイを仕掛けようとした外道は、今のところひとりもいないのだから、まあ安心と言えば安心だ。

 

これは一種の、無言の紳士協定とは言えないだろうか。あの和志でさえ、その点では例外ではなかったのだから。

 

 他のみんなも一応、それだけの理性と分別はついているらしい。これをどこまで信用して良いのかは、今のおれにはわからないんだけど。

 

 それでもっておれの寝床の右隣りでは、問題の孝治ひとりだけがいまだに瞳を覚まさず、静かな寝息を立て続けていた。そんなにもおれたちを、心の底から信用してくれているのだろうか。これはこれで、うれしい思いではあるけど。

 

 しかし、自分の体の女体化を自覚しているくせに、野獣どものド真ん中で平気で熟睡できる鋼{はがね}の神経――いや無神経は、これはこれで物凄いような気がする。

 

 いやむしろ、究極の能天気とでも言うべきか。

 

 そんなつまらないことを考えつつも、正直おれは、このときドキッと心臓が高鳴る思いがした。

 

 理由は孝治が可愛過ぎるのだ。こちら側に寝顔を向け、左右の瞳を閉じている姿と仕草と格好が。

 

「な、なんて、無防備なやつなんだよなぁ……自分の立場が、ほんとにわかってねえよなぁ

 

 おれは静かにつぶやきながら、孝治の寝顔を昨夜に続いて、再び上からそっと覗き込んだ。

 

 マジ天使とは、今の孝治を表現するに、まさにふさわしい言葉ではなかろうか。

 

 おれは思った。この無防備で可愛過ぎる寝顔。たとえ命を張ってでも守る価値、有り過ぎだよなぁ――と。


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