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『剣遊記 閑話休題編V』

第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。

     (4)

 いまだカチンカチンと火花を散らし合いながら、孝治の剣と女魔術師の槍の衝突が繰り返されていた。

 

このような場合ふつうであれば、長い槍を簡単に払いのけるなどして、剣のほうが断然に有利なはず。

 

だが、ここは孝治の計算外。槍の使い手は想像以上に腕の立つ猛者であったのだ。

 

「あ、あんた……な、なかなかやるっちゃねぇ☻♋」

 

 空元気と根拠薄弱気味な余裕(自覚)を見せて、孝治は不敵なつもりの笑みを浮かべてやった。

 

「あ、あんた……名前はなんちゅうとや☝ おっと、先におれから名乗るっちゃけど、おれは鞘ヶ谷孝治っちゅうもんばい✍ よう覚えときや✐」

 

 これに対し槍の名手は、実にすなおな態度で応じてくれた。

 

「あたいの名は芽羅{めら} 槍と魔術の二刀流使いばい

 

 孝治の空元気的な口調と比べ、芽羅とやらの表情には、本物の自信と余裕の色が満々の感じで浮かんでいた。どうやら彼女はそれなりに、魔術と槍道を極めているらしかった。

 

「そげな腕の達人が、なしてこげな誘拐なんち、セコい悪に手ば染めるとやぁ!」

 

 さらに根本的な問いを、孝治は芽羅に投げつけてみた。

 

「訊くんやなか!」

 

 芽羅が大声で返してきた。今度は余裕的態度を少々失った感じで。しかも返答とは程遠い口の開き方にもなっていた。

 

(まあ……人には言えん、深い事情っちゅうもんやろうねぇ☢)

 

 なんとなく芽羅の気持ちを察した孝治は、これ以上は訊かないようにした。実際今はそれどころではなく、剣と槍との真剣勝負の真っ最中なのだから。

 

 それにつまらない言葉を返して、相手(芽羅)を逆ギレさせても損だし。


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