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『剣遊記 閑話休題編V』

第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。

     (18)

「はぁ……あ、ああ、そのぉ

 

 ようやく綾香が口を開いてくれた。

 

「はい、いっちょも痛{いと}うないとです

 

「うわっち?」

 

 綾香の言葉の意味が理解できない孝治は、ただポカンと口をOの字に開くのみ。その代わりではないだろうけど、友美が一同を代表(?)して、綾香に改めて尋ねてくれた。

 

「そのぉ〜〜、それってユニコーンの一族にとって、いっちゃん大事なトレードマークやなかとですか? それが孝治が不用心に握手したもんやけ、そのぉ、男にさわられて角がポロリっちなったとやったら……すっごう悪いことばしてしもうたことになるとですけどぉ……☢」

 

 それでも綾香自身は、大いにケロリとしたものだった。

 

「ううん、これやったら大丈夫ですっちゃよ✌ あーちゃんかて、そろそろこん歳{とし}やっち、思いよったとこですからぁ ただここで落ちるっち思いもせんかったけ、あーちゃんもぉちょっとビックリしたとですよぉ

 

「こん歳ぃ?」

 

 両方の瞳に『?』マークを浮かべている友美に(孝治と涼子も)、あーちゃんこと綾香が、ごく簡単に答えてくれた。

 

「そしてぇつまりぃ、子供の角、乳角{にゅうつの}が落ちてぇ、大人の角、永久角{えいきゅうつの}に生え変わるっちことなんですからぁ✌♪ そしてぇ元ん長さまで戻るのに、一年ちょっとかかるんがぁ困りモンなんですけどねぇ まあ、それがわかっちょったけ、昼間に店長に抱きつくこともできたっちゃですよ♡♡

 

「は、生え変わり……? 角がけぇ?」

 

「そげなん初めて聞いたっちゃあ〜〜♋ それはとにかくとしてぇ……あんときは周りが大騒ぎやったけ気づかんかったけど、今にして思えばユニコーン一族として、大問題な行動やったわけっちゃね☞ 店長も勝美さんも、それば知っとったんやねぇ☻」

 

 孝治はもう、両方の瞳をパチクリさせるばかり。一方で友美は驚きながらも、昼間に起こった出来事を、頭に思い浮かべているようだった。

 

『きゃははははっ☻☻☻ 相変わらず意地の悪か店長と勝美さんばいねぇ☻☺☻

 

 ふたり(孝治と友美)とは反対に大笑いの声は、空中に舞い上がっている涼子のもの。もちろん綾香に幽霊は見えていないだろうけど、その分遠慮もなにもなし――これもいつもの恒例か。

 

『こりゃあーちゃんのために、あしたん朝は赤飯炊かせてお祝いばせないかんちゃね 孝治から由香たちに言うてやり☛

 

「う、うん……♋」

 

 しかし孝治はいまだ、初めの動転から精神的に立ち直っていなかった。それでもだんだんと、事態の重要性だけはつかめるようになっていた。

 

「ま、まあ変な話の成り行きっちゃけど、未来亭に新しい仲間ば増えて、しかも大人への階段ば一歩も二歩も上がった、っちゅうことやけ、ここは盛大にお祝いばしてやらんといけんちゃね✊✋ こげんことやったら、あとはおれに任せんしゃい✌

 

 孝治はセリフの勢いのまま、湯船からバシャッと飛び出した。さらにそのままの勢いで、脱衣場へバタバタと駆け込んだ。


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