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『剣遊記 閑話休題編V』

第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。

     (17)

 孝治は綾香と握手をした。

 

 毎度のパターンであるが、その瞬間だった。綾香の眉間から伸びているネジ巻き型の一本角が、突如ポロリと外れ落ちたのだ。

 

「うわっち!」

 

「きゃっ!」

 

『角が落ちたっちゃ!』

 

 角がポチャンと音を立て、お風呂の湯にしぶきを上げた。孝治、友美、涼子が同時に驚きの声を、浴場で張り上げた。湯気の中で三人の声(おっと涼子は除く――にしておかないと)が反響音となって、浴場全体にわんわんと響き渡った。

 

「うわっち! ごめん!」

 

 なにがなんだか訳がわからなくなり、孝治は湯船からバシャッと立ち上がった。

 

「うわぁ、孝治さん、胸大きかぁ〜〜♋」

 

 こちら方面の綾香の驚きは、友美が旋毛{つむじ}を曲げるので不問にしておく。

 

「孝治っ! なんちゅうことすると!」

 

 それよりもこちらは立ち上がらなかったものの、友美が大きな声で怒鳴りつけてくれた。

 

「まさか、ユニコーンの角が男がさわったら落ちるっちゅうこと、忘れちょったと☠ ……わたしも忘れちょったんやけどぉ……☢」

 

 その問題である綾香――ユニコーンの角は、けっこう軽い材質であるらしい。お湯の上で木片のように、プカプカと浮かんでいた。

 

 さらに言えばなんなのだが、角を失った当の被害者(?)である綾香は、いったいなんが起こったっちゃろうか――とでも言いたげな、ポカンとした顔になっていた。

 

 ただ角が外れたばかりである眉間部分――要するにおでこの所が、一部赤味を帯びた円形状。その様子が生々しいと言えば生々しかった。

 

 しばしなんの声も発しない綾香に、孝治は立ったままで恐る恐る尋ねてみた。

 

「あのぉ〜〜、痛{いと}うないと?」

 

 友美と涼子も孝治のうしろから、綾香の様子を伺{うかが}っていた。


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