『剣遊記 閑話休題編V』 第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。 (14) 「店ちょおーーっ!」
ようやく誘拐犯罪の魔手から解放された綾香が、感極まったのだろう。真正面から黒崎に抱きつこうとしていた。猛ダッシュで地面を駆けながら両手を広げて。
ふつうならば、これも一種の感動シーン。ところが今回は、そうもいかなかった。
「ちかっと待ちんしゃい!」
いきなり秘書の勝美が現われて、綾香と勝美の間の空中に、両手を大きくおっぴろげて立ちはだかったのだ。
「うわっち! 勝美さん! 恒例の予告なし脈絡なしの登場っちゃね☀」
孝治もこれには驚いた。だけど勝美の眼中に、孝治は入っていないようだった。そのピクシーである店長秘書が、甲高い声で言い放った。正面の綾香に向けて。
「あーちゃん、あさんそんなごなぁ角ばどこに刺したか、私ほんなこつ見とったとばい! やけんよそばしか(佐賀弁で『ばっちい』)うちはちかっと消毒ばせんと、店長に近寄ったらいかんばい☢⛔」
「あ、そうやったわ☕」
綾香も早々に納得した感じ。これを孝治の右横で、ジッと成り行き任せに見ていた涼子が、そっとつぶやいた。
『そら刺したとこが『あれ』やけねぇ☻ 潔癖的に綺麗好きな勝美さんが止めるんも、ようわかるっちゃね☻✌』
このあと綾香は、勝美がわざわざ用意したというアルコール消毒液を湿らせたガーゼで、角の先端を消毒。それから改めて、黒崎店長に抱きつき直した――という顛末。
「なんか締まらん終わり方っちゃねぇ☻」
孝治も苦笑の思いが、束になってかかってくるような気持ちでいた。なおこの章の文章がわかりにくい方がおられるかもしれないけど、事が事なので(乙女の恥じらい)これにて終了させていただきます。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |