『剣遊記 閑話休題編V』 第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。 (12) 誘拐団一味はこれにて壊滅。事件は一応の解決をみた――と言ってもよろしいのだろうか。
「しっかし、最後のあれはなかっちゃねぇ☠」
孝治は結末の有様に、大きな疑問を感じていた。
「いくら敵さんとは言え、よりにもよって清純な乙女の……そのぉ……なんちゅうか、お尻に先がとんがった角ば突き刺すやなんち……おれには絶対にできん暴挙ばい……☢ たとえ角がおれにもあったとしてもやねぇ……☢」
「……も、もう、い、言わんといてください! あーちゃんかてあんときもう、一生懸命過ぎてなんがなんか、ようわからんとですからぁ⛐」
綾香の顔面はもう、真っ赤の真っ赤の紅玉状態になっていた。
そりゃ人の尻に自分の角ばグサリなんち、よっぽどの緊急事態になったかて、なかなかできんことやけねぇ――などと、これ以上は孝治も突っ込まないようにした。
とにかく是美と芽羅を始めとして、誘拐団のメンバー全員、衛兵隊によってお縄の身となった。
あとで聞いた話によれば、彼女たちの犯行動機は、是美の主催する魔術師塾が経営困難の危機となり(ここまでは巷でよくある話)、その資金繰りに困っての誘拐実行となったらしい。また、その塾の実体は魔術の教え方がいい加減で、もっぱら訳のわからない国粋主義思想にこだわった講義ばかり行なうので、塾生が次々に愛想を尽かして去っていく――とも言う。
「今どき家長制度が大事っとか、お国ばもっと敬愛ばして命ば捧げないかんとか、そら聞かされるほうが引いちまうってもんばい☃」
単純頭を自覚する孝治でも、一歩も二歩も身を引きたくなるような犯行動機と言えるだろう。
さらに当然であるが、捕まった一味の中に、あの手紙に化けていた美少女魔術師もいた。彼女もすっかり観念しきっている感じっぷり。縄こそそんなにきつくグルグル巻きにされているわけではないが、完全におとなしく、それこそ借りてきた子猫のような態度で衛兵隊に引かれていた。
その彼女の視線が黒崎に向いていることに、孝治も今になって気がついた。
「?」
初めは孝治も、その行動の意味がわからなかった。だけどさすがは年の甲である。黒崎にはすぐにピン💡ときたようだ。間髪を入れず、黒崎のほうから美少女に声をかけていた。
「罪は罪だがや。でも、君が本気で更生して立ち直る気があるなら、いつでも未来亭を訪ねるがええがね」
美少女は涙目ウルルンで、黒崎を見上げていた。身長にやはり、かなりの格差があるものだから。
「刑期終わったら、未来亭をほんとに訪ねてええと? 実はあたし……手紙になって未来亭に行ったときから、店長になんて言うか……ひと目惚れしたっちゃね♡♥」
「うわっち!」
予想もしなかった彼女の爆弾発言💣で、孝治は一瞬だが飛び上がった。さらにこのような場合、よせばいいのはわかっているのだが、つい冷やかし気分になってしまうもの。
「ひゅ〜〜♥☻ ひゅ〜〜☻♥ 店長、意外と罪作りな男っちゃねぇ☕☻」
しかし黒崎は孝治の囃し相手にはなってくれず(黒崎は大人。孝治、赤っ恥{〃ノωノ})、真面目そうな顔のまま、美少女に応えるのみでいた。
「未来亭は君のような女の子は、いつでも大歓迎だがね。だから今すぐにでも君の席を用意して待っているがや。そうだ、また会う日のために、君の名前を言ってほしいがや」
美少女が大きくうなずいた。
「はい、室町優菜{むろまち ゆうな}です☀♡」
手紙に化けていた美少女魔術師――室町優菜は、そのまま衛兵隊に引かれ、黒崎と孝治たちの前から立ち去った。
孝治の右隣りで、友美がそっとささやいた。
「あの優菜ちゃんっての、近いうちに絶対、わたしたちの前に現われるっちゃねぇ、きっと♐」
孝治もコクリとうなずいた。
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