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『剣遊記 閑話休題編V』

第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。

     (11)

 だが行き詰まった事態の打開は、当の綾香自身が決行してくれた。

 

「えいっ!」

 

 実に単純極まりない話。綾香が自分の背後に立つ是美の右足の甲を、ドスンと思いっきりに、自分の右足で踏みつけたのだ。

 

「きゃあーーっ! 痛ぁ〜〜い!☠」

 

 相変わらず是美の悲鳴は可愛らしかった。しかもなんたる呆気ない結末。踏まれた衝撃のせいだろう、是美は握っていた短刀を、ポロリと地面に落とす大失敗の繰り返し。

 

「もう単純すぎる話の連続っちゃねぇ これじゃおれたちの出番、ほんなこつなかっちゅうもんばい

 

 孝治も思わずつぶやいたほどの、事件の急展開(?)と相成った。

 

 しかしこれで終わっては、本当におもしろくもなんともない――と言うもの。

 

「えいやぁーーっ!」

 

 続いて綾香がなんと、狼狽しきっている是美のうしろへクルリと回り、実に大胆極まる攻勢に出てくれた。

 

「えいやぁーーっ!」

 

「はぐっ!」

 

 これはまたなんと、究極的に驚いた事態――同時にハレンチ極まる事態。綾香が眉間の角を突き立て、是美の――なんて言うか弱点(彼女だけでなく人類全体――どころでもなく、地球上に存在する全生命体の弱点かも)――つまりお尻に、ブスリと刺し込んだのである。

 

 先ほどの『はぐっ!』は、是美の断末魔(?)の声だったのだ。

 

「か、仮にもヒロインが、こ、ここまでえげつないことやるとやぁーーっ!」

 

 孝治の驚きも、もはや絶叫に近かった。さらに付け加えれば是美の絶叫も、もはや悲鳴にすらならなかった。

 

「あぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

 是美のそれなりに切れ長で妖艶だった瞳がクルリと反転。白目が剥き出しの有様となった。


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