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『剣遊記 閑話休題編V』

第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。

     (10)

 セコくてズルい手段とはいえ、勝てばまさに官軍である。唯一だったらしい敵チームの戦闘担当も、これにて孝治に敗れたわけ。こうなると残りひとりはリーダーの是美だけなのだが、彼女はまだまだ往生際が悪かった。

 

「さあ、手下どもは全員お縄となった今、おまえさんひとりが意地を張ってもしょうがあるまい 今降参すれば罪一等減じる、お上のお情けもあるのだぞ

 

 これは大門隊長の、いつもの口癖である。約束が果たされた例など、実は一度も無い口約束の繰り返しなのだけど。

 

 対する是美は、孝治と芽羅が対決している間に、手段はわからないが再び綾香を人質として取り戻していた。

 

 今も右手で短刀を構え直し、左手で首根っこを抑えつけている綾香のノド元に突きつけているのだから。

 

 要するに初めと同じ。話に進展なし。

 

「お黙りっ! うちはまだまだ負けたわけじゃなかっちゃけね! この娘{こ}の命と角ば大事やったら、そこん道ば開けんしゃい! 輝かしい日本の未来のためにやねぇ!」

 

「あれぇ〜〜っ! 店長、助けてくだしゃあ〜〜い☂☃」

 

 綾香が可愛らしい悲鳴を上げた。また指名された黒崎のほうも、すっかり手詰まり状態の感じでいた。

 

「う〜ん、困ったがや。もうこれ以上策を立てておらんがね」

 

 店長が困り顔になって、頭を右に傾けていた。しかし口調そのものは困っているのだが、下アゴに右手を当てながら口の左端はニヤリとさせているのだから、やはりこの店長{ひと}の頭の中身はわからなかった。

 

「……店長、なんか考えとるんやろっか? いつもこげなとき、事件解決の裏技ば仕掛けよっとやけどねぇ☠」

 

 孝治は無意識的につぶやいた。まあこれが、いつもの最終局面的パターンでもあるし。しかし衛兵隊の立場になれば、これでは面目が立たない場面であるだろう。

 

「ぐぬぬぬぬっ♨ この期に及んで悪あがきなんぞ繰り返しおってぇ! 悪党どもはどうしてこうも、飛ぶ鳥後を濁すような連中ばかりなんじゃい♨」

 

「怒りはごもっともなんですけど、早よ事態の打開ば打ってほしかっちゃですけどねぇ

 

 うなる大門隊長から少し離れた真後ろで、砂津がボソッとささやいていた。後輩の井堀や孝治たちには聞こえるような声で。

 

「うん、それはそうっちゃけどぉ……

 

 孝治としても、もはや策は手詰まりだった。ここでなにか奇跡でも起きない限り、綾香救出作戦は、絵に描いた餅なのであろうか。


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