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『剣遊記 閑話休題編V』

第三章 激闘! 悪をつらぬく角一本。

     (1)

「だ、騙したっちゃねぇーーっ! ようもうちら、日本の未来ばしょって立つ国士に対してやねぇ〜〜っ♨」

 

 当然ながら――であるが、リーダー魔術師の怒髪天を衝くような大声が、白煙で視界ゼロに等しい身代金交渉現場で響き渡った。

 

 現在地は原っぱのはずなのに、なぜか風が吹いてくれないのだ。

 

 それは置いて説明しよう。孝治たち未来亭の面々は、確かに本物の金貨を集め、身代金全額を準備した。そのついで、ビジネスバッグに簡単な仕掛けも忘れていなかったわけ(このときは正体に気づいていなかったが、脅迫状のない所で)。

 

 相手に向けてバッグを開いたとたん、視界を奪うための白煙が噴出するセコい仕掛けを。

 

 原理は不明。

 

「要するに、ズルい作戦っちゅうことやねぇ☠」

 

 孝治のつまらないつぶやきである。それはとにかく、誘拐団側からすれば、あまりにも当然のごとくで激怒もの。

 

「もう許さんけぇ! 人質もあんたらもみんな皆殺しばぁーーい!」

 

 ついでに頭に血が昇りきれば、当たり前だが当の本人は隙だらけ。

 

「あうっち!」

 

「きゃん!」

 

「うわっち?」

 

 突然の可憐(?)なる悲鳴に、孝治は思わずハテナの声を上げた。見ればノド元に短刀を突きつけられているはずの綾香が、ここで火事場の馬鹿力を発揮した――と言うべきであろうか。なんと短刀魔術師の右腕に、見事ガブリと噛みついていた。おかげで凶器である短刀がその右手から離れ、ふたりの足元にカランと落ちて転がった。

 

「痛ぁ〜〜い😭!」

 

 けっこう可愛らしい泣き声を上げて、短刀を持っていた魔術師はこれまた思わずであろうが、綾香をドンと右手で前に突き飛ばした。

 

つまりがほとんど、人質の放棄――解放と変わらない。これを見たリーダー格が、怒りの表情もあらわに叫んだ。しかしここで照れ隠しであろう。軽い咳払いを再び行ないながらで。

 

「お……おっほん……こげん馬鹿にして、も、もう許さんけぇ、の二乗やけぇ! うちら愛国者ば馬鹿にしたら泣きば見るとやけねぇ!♨」

 

 こちらの怒り方も、なんだかとっても可愛い♡ ついでにやはり、意味不明。

 

「是美{ぜみ}さん! ここはあたしにお任せください

 

 『ぜみ』というのがどうやら、リーダー格魔術師の名前らしい。今さらどうでもよい話ではあるが。

 

「うわっち! なんやようわからんちゃけど、カッコええ登場の仕方やねぇ✍」

 

 名前うんぬんはともかく、孝治も感心するほどの勇ましいセリフで、またもや新たなる配下の女魔術師が現われた。しかもこの新顔である彼女のみ、孝治や友美と同じように軽装の鎧を着て、両手には長い槍を一本持って構えていた。

 

 孝治はすぐにピンときた。

 

「唯一の戦闘担当員っちゃね

 

 そのため次の決断も早かった。念を入れて、孝治は友美に尋ねてみた。

 

「友美、あいつはおれが引き受けるっちゃけ、あとの魔術師連中は任せてよかね?」

 

 返事は一発で戻ってきた。

 

「うん、よかっちゃよ✌ 孝治も気ぃつけんしゃいね

 

 実際魔術ではなく、このような物理的な武器を持つ者が出てこなければ、孝治の出番は今回あまり無いはずだった。もともと任務は、店長の護衛ぐらいであったから。

 

 しかし出てくれば話は別である。孝治は腰の鞘から、愛用の中型剣をスラリと引き抜いた。


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