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『剣遊記 閑話休題編V』

第二章 大都会、白昼の誘拐事件!

     (12)

「ま、まずはそんカバンば開けて、中の金貨ばちゃんと見せんね☛」

 

 誘拐団のリーダーが、なんとか気を取り直したようだ。黒崎が持っている茶革のビジネスバッグを、ビシッと右手で指差した。それも効果音(ビシッ)もバッチリの決めゼリフでもって。

 

「そこまで言うならしょーがにゃーが」

 

 とにかく形勢は、未来亭側が一方的に不利なのだ。それを誰よりも心得ているであろう黒崎がビジネスバッグを開いて、彼女たちの前で中身を披露してみせた。

 

「金貨に間違いはないみたいっちゃね☻」

 

 リーダー格がふふんと微笑んだ。しかし孝治はつぶやいた。周囲には聞こえないような、小さな声で。

 

「確かに店長は嘘ば言うとらんのやけど、あげんたくさんの三百枚もの金貨の数ばチェックすんのっち、時間がかかってしょんなか、っち思うっちゃねぇ♋ あいつらどげんして、それば確認するつもりやろっか?」

 

 はっきり言って、孝治も自覚済みながらの『大きなお世話』であろう。そんな孝治のよけいな気遣いに気づくはずもなし。リーダー格がアゴを右にしゃくって、居並ぶ配下たちに命令した。

 

「早よ、あいつのカバンば取ってきんしゃい☛ これでとにかく、うちらは目的ば達成したっちゃけ✌」

 

「は、はい!」

 

 これに配下のひとりが慌てた感じで前に出て、黒崎からなかば強引的にビジネスバッグをバッと奪い取った――と、これまた例のごとくで、次の瞬間だった。

 

「きゃあーーっ! なにこれってぇーーっ!」

 

 配下がバッグを奪い取ったとたん、その中からブシューーッと、白い煙が火山の噴煙のように噴き出したのだ。

 

「これぞ煙幕作戦成功っちゃあーーっ!」

 

 孝治はしてやったりで叫んでやった。まさに読者にすら予告も脈絡も前兆も見せない、パールハーバー的奇襲攻撃とは言えないだろうか。

 

 言えないか。


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