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『剣遊記X』

第一章  天才魔術師の憂鬱。

     (9)

 男性から女性への性転換を果たして、早や数ヶ月。この間友美や未来亭の給仕係たちから、全強制的にお化粧の技術を、孝治は教え込まれてきた。

 

近ごろではそれなりに、メイクも板についてきた――と、孝治自身はやや不本意ながらも考えていた。

 

 それがいきなり、全面否定をされたのだ。

 

「ヘタぁーーっ?」

 

 とにかく面と向かってケチをつけられたのは初めてだった。孝治は速攻で、静香に喰ってかかった。

 

「ちょ、ちょい待ちやぁ! おれはやねぇーーっ!」

 

「それに、『おれ』なんて乱暴な言葉づかい☞ 女として、もう最っっ低っ!」

 

「てめえっ! いい気になってくさぁ!」

 

 女性としてのプライド(?)をメチャクチャに傷付けられ、孝治はもはや怒り心頭。静香に飛びかかろうとした。

 

「きゃん! 進一さぁ〜〜っ☂」

 

 とたんに静香が可愛い娘ぶって、魚町の背中に隠れてしまう。なお静香の身長も、魚町の腰まで届いていなかった。

 

「まあ、孝治も落ち着きんしゃい✍」

 

 いきり立つ孝治を、魚町が右手で制して止めてくれた。完全に全力を出しきっている孝治を、本当に片手だけで簡単にあしらえるのだから、魚町はやはりデカかった。

 

 今や先輩の手の中にいるのとほとんど同じ状態(お釈迦様と孫悟空の関係みたいなもの✍)の孝治は、必死の涙目になってわめき続けた。

 

「そ、そげん言うたかて、先輩! こいつ、おれんことば最低なんちぬかしよったとですよぉーーっ!」

 

「いーだ👅!」

 

 魚町の背中――というより右足の太もものうしろから、静香が舌👅を出していた。

 

「静香も悪気なかっちゃよ✄ ただ根が正直モンやし、嘘ば吐くんが大っ嫌いな性格なもんやけ♐」

 

「よけい悪かっちゃですよ!」

 

 魚町の弁解にならない弁解に、孝治の叫びが重なった。どうやらこの展開は、新たなる騒動の幕開けとなろう。この様子を興味しんしんで眺めていたに違いない。涼子がテーブルの椅子に座り直した友美に、そっとささやきかけていた。

 

『なんか、すっごいおもしろそうなことになりそうっちゃねぇ♡ あたしの勘やと、すぐにとんでもなかことが起こりそうなんやけど、友美ちゃんはどげん思う?』

 

 友美もコクリとうなずいた。

 

「わたしもそげん思うっちゃよ☁☂」


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