『剣遊記X』 第一章 天才魔術師の憂鬱。 (6) 加害者の自覚など、魚町にはカケラもない感じ。やがて煙が綺麗さっぱりに消え失せ、市内の惨状があらわとなってきた。
石畳の道路はあちこちがひび割れてめくれ上がり、建物の窓ガラスも到る所で割れ散っている有様。
おまけに路上には、屋根瓦の破片が何百枚も転がっている始末。
後日、これらの被害総額が集計され、市のほうから正式に、未来亭当てで損害賠償が請求されたらしい。
まあ、こちらの問題は、黒崎店長に任せるとしよう。それより本筋に戻る。
「魚町先輩、ひさしぶりです♡」
「よう☀ 裕志も元気そうやねぇ♡」
軽く応えて、魚町が自分の足元に駆けつけた後輩――裕志の頭を、巨大な右手で優しく撫でてやった。
「ぎゃん!」
たったそれだけの力で、裕志がタンポポの種よりも簡単に、道路の端まで吹っ飛ばされた。
「おっと、すまんすまん☃ 手加減したっちゃけどねぇ☢」
魚町が慌てた感じでもって、右手で自分の角刈り頭をかいていた。これで本当に、悪気はないようだ。
そんな魚町の足元に、今度は由香と友美も集まった。
「先輩! 一年ぶりですっちゃね♡」
「やあ、由香ちゃん♡ 相変わらず未来亭で頑張りようみたいっちゃねぇ♡」
「先輩、あとで冒険の話ば聞かせてくださいね♡」
涼子と身長が同じである友美も、魚町のそばに寄ると、やはり膝の下以下であった。
「よかっちゃよ♡ 友美ちゃんの頼みやったら、よう聞かんわけにゃあいかんけねぇ♡」
大男の定番にふさわしく、魚町先輩は、気前の良い男なのだ。
また孝治も、友美たちといっしょ。魚町の足元に寄って(孝治も魚町の股下より、身長が低かった)、ふつうの声では先輩の耳まで届かないので、大きめに叫んでの挨拶を行なった。
「魚町先ぱぁーーい! どうも、おれでぇ〜〜っす!」
「おっ!」
魚町はすぐ、足元の孝治に気づいてくれた。それから、ひと言。
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