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『剣遊記X』

第一章  天才魔術師の憂鬱。

     (13)

「ととどん! なんとか言ってよ!」

 

「……わがっだ✍」

 

 娘から攻められ続けだった村長が、静かに、さらに重たそうにして、ポツリと口を開いた。そんな父親が見つめている先は、黙って正座をしている戦士の男(もっとも魚町自身は、この場でなにを言って良いのかわからないのだが)。

 

「わすも男だべぇ✌ バードマンだ人間だなんて、みみっちいことさ言う気はさらさらねえ✄ ただ進一くんが、石峰家の婿にふさわしいかどうかだけは見定めさせてもらうだぞ✐ ええか! 静香☞」

 

「ととどん♡ ありがとうだぁ♡」

 

 この瞬間、宴の席に大ゲサな拍手喝采が湧き起った。ついでに色とりどりの紙吹雪や紙テープまでが舞い散る始末。

 

 めでたい席をさらに盛り上げる、恋物語の成就なのだ。これが祭り大好きな村人たちから、盛大な歓迎を受けないはずがなし。

 

 ただひとり――なにがなんだか訳がわからない状態。自分を置いてけぼりにして、話がとんとん拍子で進められている状況の魚町を除いて。

 

 このような宴の盛り上がりを前に置き、村長が娘に厳格そうな顔を向けた。

 

「まんだ礼さ言うには早いだど♐ 静香☞」

 

「はい! お父様♡」

 

 いつの間にやら、『ととどん』から『お父様』へと、呼び方が昇格。また、それには気づいていない感じで、村長が言葉を続けた。

 

「今、石峰家の婿にふさわしいかどうかさを見定めると言ったんだべぇ♐ だから進一くんさには、それに見合った試練さ受けてもらうべぇ✈」

 

「わっがりましだぁ☀」

 

 やはり魚町本人はなにも言っていないのだが、静香が勝手に父の言葉を承諾した。

 

「あたしと進一さぁのふたりで一致協力してぇ、どんな試練でも乗り越えてみせるんだがらぁ☆」

 

「よくぞ言った! そんでこそ石峰家の娘っこだぁ☀」

 

 固い絆で感動し合う、石峰家の父娘。この間当の魚町は、とうとう無発言のまま。

 

「そんでぇ、お父様♐ 試練っていってえ、なにすればええだ?」

 

 ここで改めて問いかける静香に、村長が上座の座布団から立ち上がった。それからうしろにある窓を開いて、手前にそびえる山並みを、右手で指差した。

 

「試練とは、この村に代々伝わる成人の儀とおんなじもんだべぇ☛ あの赤城山の頂上さにある宝を、ここまで持っで来ることだぁ♪ これがわしがおまえたちにあえて与える、たったひとつの試練だんべぇ♠」

 

「お父様♡ うれしいだがね♡」

 

 静香は父の心優しい計らいに、涙を流して感激した。

 

 確かに赤城山は、高山には違いなかった。だが、それほどけわしい山岳というほどでもなし。だから村に伝わる試練うんぬんとて、村で成人を祝う儀式のひとつに過ぎないもの。つまり村長は、厳しい条件を科しているようでいて、事実上はふたり(静香と魚町)の関係を許しているわけ。

 

「進一さぁ♡ あすたんなっだら、すぐふたりで赤城山さぁ登るべぇ♡」

 

「う……うん……☁」

 

 今やすっかり舞い上がりの気分(ついでに酒酔いもぶり返した⛐⚠)。そんな静香の瞳には、今ひとつ煮え切らない思いでいる魚町の顔付きが、まるで見えていなかった。

 

 その夜の村の宴会は、山賊退治の成功と村長のひとり娘の婚約発表を祝して、けっきょく徹夜で続けられることとなった。


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