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『剣遊記X』

第一章   天才魔術師の憂鬱。

     (11)

 周囲を深い渓谷で囲まれた山村へと帰り着くなり、魚町は盛大な凱旋のようにして迎えられた。

 

「ばんざぁーーい🙌! ばんざぁーーい🙌! ばんざぁーー🙌い!」

 

 お出迎えの先頭に立つ村長――静香の父――にも、背中から翼が伸びていた。

 

 そう。ここはバードマンの里なのだ――とは言っても、村人全員がそうではなかった。見回せばふつうの人間もいるし、ライカンスロープ{獣人}が変身しているとしか思えない、狼や熊などの獣もいた。

 

 要するに、玉石混交なわけ。

 

 このような人口の構成は別に、静香の村だけの特徴ではなかった。これは日本中のどこにでも見られる、ごくふつうの光景なのだ。ただ偶然、この村ではバードマンの割り合いが多いだけの話であろう。

 

「ど、どうも……すいやせんでした……今までしょうきなご迷惑ばっかしかけて、ほんとにすいやせん……☂♋

 

 魚町の威を恐れているのだろう。山賊の親分矢守根が村人全員に向け、殊勝に頭を下げ回っていた。

 

 きのうまで、それこそやりたい放題。村人全体に、無法を働いていた報いである。また、親分に続いて子分たちも、やはり同様の態度でもって、村人に頭を下げ回っていた。

 

 村長が、そんな山賊どもに向けての高笑い。

 

「がははははははっ☀ これに懲りたらぁ、もう二度と悪さするでねえど☆」

 

「へ、へい……☹」

 

 村長は娘の静香とは違って、イヌワシによく似た、茶色地に斑模様の翼を持つバードマンだった。静香はそんな父親に、実は密かな反発心を抱いていた。

 

(なにさ♨ 自分たちはなぁんもせんで、山賊退治さ全部進一さぁに押し付けといてぇ♐ ほんとにいっからかんなんだがらぁ☠)

 

 その一方で魚町は、静香とは性格が対照的。どこまでも温厚な風情でいた。

 

「では、おれはこれで終わりやね♪ 報酬は最寄りん砦ば通して、九州の未来亭に振り込んどいてくださいね✌」

 

 依頼された仕事が片付いて、さあ帰ろうとしているところ。その大きな背中を、村長が呼び止めた。

 

「ま、待っでぐだせぇ! 今夜はあなたさぁの勝利さ祝って宴の席さ用意しでますからぁ、ぜひとも参加しでぐだせぇ✌ お帰りになるのは、あしたでよろしいじゃおまあせんか✌ まぁず、うんめぇん酒もありもうすからぁ☆」

 

「えっ? し、しかしぃ……☁」

 

 ためらう素振りを見せたところで、根っから人の良い魚町である。村長の誘いを断る真似など、初めっからできはしなかった。


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