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『剣遊記\』

第五章 瀬戸内海敵前上陸戦!

     (9)

 時間を元に(戦闘中に)戻す。

 

 海岸の別の方角から、ガゴオオオオオオンと大きな破壊音が轟いた。

 

 砂浜の灯りは、とにかく海賊どもが焚いた篝火だけが頼りとなっていた。だがその火が揺らぐ中、岩場に繋留してある海賊の船が、次から次へと転覆。赤い船底を海面に晒していった。

 

『見てん! 永二郎くんと桂ちゃんも始めたみたいっちゃよぉ!』

 

「あっ! ほんなこつぅ!」

 

 漁船上で待機している涼子と友美が眺めるその前で、海賊船団が片っ端から引っくり返っていった。その原因は、永二郎と桂のふたりがそれぞれシャチと人魚のままで、海中から海賊船を沈める作戦を決行中であるからだ。

 

「永二郎さん! あっちにもがいに大きな海賊の船があるぞなぁ!」

 

 船上にいる友美と涼子にも聞こえるほどの大声で、桂が永二郎に指示をして回る。その声に反応しだい、永二郎が浮かんでいる木造の船舶に、ドカンと体当たりをブチかましているのだ。

 

 シャチの巨大な体格が激突すれば、木造船など折り紙の船と、なんら変わりはしなかった。それこそ瞬く間に木端微塵。あとは見たまんまのとおり、海の藻屑となり果てた。

 

『やるっちゃねぇ〜〜、あんふたりも✌』

 

 涼子はすっかり、ふたり(桂と永二郎)の活躍ぶりに大感心。しかし友美はこのとき、ふとうしろに振り返っていた。

 

「あら? 美奈子さんと千秋ちゃんと千夏ちゃんがおらんちゃよ♋」

 

『えっ?』

 

 言われてから涼子も、うしろに振り返った。確かに戦いには参加をしていないので、甲板に残っているはずの三人の姿が、どこにも見当たらなかった。

 

 なお不参加の理由について、美奈子は先に次のように言っていた。

 

「うちらは海賊の親玉はんが出てはってから、お相手することにいたしますえ☻ そやさかい、それまで孝治はんに痛めつけられたこの体、そおろと休ませていただきますえ☻」

 

 つまりが皮肉混じりの言い訳。

 

 友美は老漁夫に尋ねてみた。

 

「ねえ、おじいちゃん、美奈子さんと千秋ちゃんと千夏ちゃん、どこ行ったか知らんですかぁ?」

 

 老漁夫は島で繰り広げられている戦闘シーンを眺めているままで答えてくれた。

 

「ああ、あの三人やったら裏から島にちょっとこま潜入するとか言うて、『浮遊』の魔術とかで飛んでったちゃん☛ まあ、わしには止める理由などあらへんから、勝手にどっかしゃんでもうどうぞって、行かせてやったきにのう☺」

 

「美奈子さんたち……いったいなんするつもりなんやろっか?」

 

 天才魔術師とその弟子たちの真意がわからない友美は、甲板上で小首を傾げた。そこへ涼子が、そっと左から耳打ち。

 

『美奈子さんと千秋ちゃんたち、きっと宝探しに行ったんばい☠ だって、孝治から聞いたっちゃけど、たった今海底での宝探しに失敗したばっかしなもんやけ、今度は大混乱の隙に乗じて、島中探す気っち思うわ☢』

 

「まあ! まさかっちゃねぇ〜〜⚠」

 

 などと一応驚きはしたものの、確かに涼子ん言うとおりかも知れんちゃねぇ――と、友美は深々とうなずいた。


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