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『剣遊記\』

第五章 瀬戸内海敵前上陸戦!

     (8)

 岩場に接岸した漁船からも、砂浜で激闘を続ける孝治たちの奮戦ぶりが、よく見えていた。

 

「それにしたって、そーとー大した段取りっちゃねぇ♋ あの、おじいちゃん……☛」

 

 漁船から戦いを高見の見物している者は、友美と涼子のふたりである。それも話題は、老漁夫の意表を突いた用意周到ぶりに充てられていた。

 

「船だけやのうて、海賊の旗まで用意しちょったなんち……ほんなこつ初めっから、わたしたちんために準備ばしちょったみたいっちゃねぇ✈」

 

 涼子も友美と同じくらいに感心していた。

 

『まさかちゃねぇ……こげんこつって、あるとかしら?』

 

 老漁夫が引き出しから、ドクロの紋章の描かれた海賊旗を出したときの全員の驚きようは、それはもう尋常とは言えないものだった。

 

 ここで話を少し戻らせる。

 

「ご老人! これはいったい、どげんなっとうとね!」

 

 両目を思いっきり開いて尋ねる帆柱に、老漁夫は涼しげな顔付きで応じ返すだけだった。

 

「なぁに、大したことやないやな☺ 前に浜に漂着したのを拾って、洗濯してとっといただけじゃきに☻ じょんならん(香川弁で『役に立たない』)モンとは思うたが、いつかきょうみたいな日のために……と思うてやな✌」

 

「まさか、ほんなこつおれたちんために備えちょった……なんち言わんやろうねぇ✊」

 

 正男の詰問にも、老漁夫の澄まし顔は変わらなかった。

 

「ほほっ、そう思うんやったら、それでもええきに☻ なんにしても、こないして役に立つ日が来たんじゃきに、それでええやないか☀」

 

「ま、まあ……そうっちゃが……☁」

 

 ここまで言い切られては、正男も次のセリフが出なくなる。それから一同を一気に黙らせた老漁夫の考えとは、次のとおりだった。

 

 このドクロの旗を漁船のマストに掲げれば、海賊どもが味方だと誤判断。おまけに油断もしてくれる。現に海賊は船団を襲うときに威嚇のため、常にマストにはドクロマークの旗を掲げる習慣があるのだ。さらに海賊の持ち船は大抵の場合、雑多な種類の船舶の寄せ集め――それも略奪の戦利品である。従って一隻ぐらいニセ物が混じっても、誰も気がつかないはずであろう――とのこと。

 

「ようそげんことまで知っとうっちゃねぇ☢ まるで事前に調べたみたいっちゃよ♐」

 

「……ほほっ♬ そ、それはそうかも知れんきにぃ……⚠☻」

 

 正男からの最後の問いで、老漁夫が言葉に少々詰まった感じでいたらしい。その話をあとで聞いた孝治は――さらに直接お目にした友美と涼子も――なぜだか脳裏に妙な気分で焼き付いていた。


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