『剣遊記\』 第五章 瀬戸内海敵前上陸戦! (7) 「ありがとっちゃね♡」
その剣の持ち主――孝治は、突き向けた剣を振り上げた。すると迎えに出た海賊の頭に巻かれている赤いタオルがバサッと、ふたつになって切り裂かれた。
「な、な、な、な、なぁ……!」
タオルが落ちてハゲ頭が露呈した海賊は、見事に声を失った。あとはその場で、へなへなと腰を落とすだけだった。
「とあーーっ!」
続いて船から、高度な訓練を受けた軍馬――ではない。人と馬が一体化をした姿のケンタウロスがいきなり躍り出て、物凄い跳躍力で岩場を飛び越え、砂浜の上で見事な着地を決めた。
「な、なんやぁーーっ! おんどれらはぁーーっ!」
味方だと思っていた船から訳のわからん者たちが飛び出し、海賊どもが一気に浮き足立った。実はそれを計算に入れていたという帆柱が、愛用の槍を天高く振り上げ、勇猛極まる雄叫びを上げた。
「見てんとおりの海賊退治ったぁーーい! 今やったら潔{いさぎ}よう降参してもええっちゃけねぇ!」
もちろんすなおに白旗を揚げる者など、この時点においては、まだいなかった。
「先輩っ! こいつらに人ん言葉は通じませんっちゃよ!」
孝治は帆柱の前に立ち、海賊に向けて剣を上段に構えた。
「わかっちょう! 俺なりの気合い入れったぁーーい!」
無論帆柱も、初めっから承知済み。これら孝治たちとは対照的。やる気もなにも、海賊たちはなにがなんだか訳もわからず、おろおろするばかりでいた。しかし海賊側の事情など、孝治も帆柱も、全然構ってやらなかった。
「話し合いはこれまでったぁーーい! 一気に片ば付けるけねぇーーっ!」
帆柱がさらに雄叫びを上げた。最初っから『話し合い』もなにもなかったのであるが。
「あおおおーーんっ!」
おまけに帆柱の掛け声に応じてか。漁船の中から一頭の獣までもが飛び出した。それは全身を灰色の獣毛でまとった、本物の狼🐺であった。
ワーウルフ――正男の変身した姿である。正男は浜からの敵前上陸奇襲が決まった時点で、すでに人間から狼に、その姿を変えていたのだ。
さらに続いて、海賊たちの頭上から、突然何十個もの石ころが、バラバラと降り注いだ。
「うわっ! 痛えっ!」
「誰やぁ! 石投げたんはぁ!」
海賊どもが慌てて周囲を見回すが、どこにも石を投げた犯人の姿はなし。
「地面さ捜したって、わかんないべぇ♡ だって、あたしはここだにぃ♡」
石を投げた――もとい落とした者は、バードマンの静香。彼女も攻撃決定と同時に空へ飛んでいた。しかも敵を撹乱させるため、事前に石ころをたくさん拾い集めていたのだ。
これら海と空からの立体的奇襲によって、浜辺はたちまち大混乱の坩堝{るつぼ}と化した。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |