『剣遊記\』 第五章 瀬戸内海敵前上陸戦! (1) 予想もしていなかった巨大ダコとの格闘戦で、なんだか何十時間も海中に潜っていた。
そんな気がしていた。
孝治は永二郎の背ビレにしがみつき、ようやくの思いで海面上に顔を出した。
「ぷっはぁーーっ! うまかぁ♡」
魔術の効果ではない、本物の酸素を思いっきり深呼吸。やはり地上の空気は美味しかった。
また、孝治のうしろからザバァーーッと、永二郎の巨大な背ビレが、洋上に浮かび上がった。そのついでか。ブッシュウーーッと、派手な潮吹きも披露してくれた。
これらはすべて、友美が『水中適応』の魔術をかけていたからこそ、話がうまくいった奇跡なのだ。しかし、もしもそれがなかったら、孝治も永二郎もタコとの水中戦の途中で息が切れ、ふたり仲良く餌食になっていたはず。
そんな風に考えると、孝治は心の奥底から魔術の威力に、感謝感謝の意を表わしたい気持ちになった。
「友美、恩に生きるばい☆」
そこへさらにジャブンッと、桂も海面に顔を出した。続いて発光球姿の涼子も、海上からふわりと空中に浮かび上がった。
「まあ、全員無事やったっちゃね☆」
孝治は感慨深げにささやいた。
その涼子の霊光に照らされ、海上で待っていた漁船が見えたときだった。友美が船のほうから、浮遊魔術で飛んできた。
「駄目っちゃ! すぐ光ば消して!」
『ええっ?』
いきなりあせって言われたところで、涼子は初めはなにがなんだかわからないと言った感じで、ふわふわとしているだけ。それからすぐに、発光球(ウィル・オー・ウィスプ)から、元の人の体型へと戻っていった。これにて急激に照明が失われたので、周囲の海面が、再び闇夜に包まれた。
「うわっち?」
友美のあせりようは、孝治にもなにがなんだか訳がわからなかった。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |