『剣遊記\』 第四章 怒涛の海底探査行。 (34)
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光がほとんど有り得ない海底の暗さに慣れているであろうタコの眼に、発光球(涼子)の急接近は、まさしく強烈な刺激に違いなかった。
ここで繰り返すが、錦鯉(美奈子)を追った理由は、タコには白くて光る物体に、異常に執着する習性があるからだ。そのためだろうか。孝治の両足に巻きついていた触手の力が、急激に弱体化。原因はタコが今度は、発光球を新たに狙って、触手を伸ばしていった。
(うわっち? タコん足が弱まりようばい♋ こりゃ助かったんかも♡)
孝治はすぐに、状況を理解した。無論、相手が物理的実体皆無の幽霊では、いくら巨大ダコの大吸盤でも、捕えることは不可能であろう。だからタコは光をなんとかして絡め取ろうとするあまり、結果的に孝治や永二郎たちを取り逃がす愚を犯したのだ。
(よっしゃ♡ 今んうちっちゃけ♡)
巨大ダコが隙だらけとなった状況を幸い。戦士の孝治は、このチャンスを絶対に見逃さなかった。さっそく力の抜けた触手と吸盤を簡単に振りほどき、孝治は一気にタコの頭部まで泳ぎつけた。それから自分の頭よりも大きなタコの左の目玉に、グサッと満身の力を込めて、短剣を突き刺した。
まさに柔よく剛を制す。やわらかくて強固に硬いタコの表皮も、眼球だけは、やはり例外。ついでに申せば、タコは涼子に夢中となり過ぎ。本来優れているはずの視力を、すべてそちら方面に向けていたことも、孝治に大きく幸いした。
ちなみに孝治は、これらの行動すべてを、美奈子を左の小脇にかかえたままで実行していた。
実に器用すぎ。
また無意識と言う振る舞いは、時としてある意味、とても恐ろしいものだ。
とにかく形勢逆転のチャンスともなれば、永二郎も黙ってはいなかった(水中ではもともとから声は出せないけれど)。永二郎はいまだ尾ビレに触手を二本も絡ませたまま、巨大な体格を水中で三回転半! ここで身を翻すと同時! タコの本体にシャチの牙で、思いっきりにガブッと食らいついた。
さらにシャチの牙が巨大ダコをズタズタとするのに、長い時間はさほど必要とはならなかった。 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |