『剣遊記14』 第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。 (9) 「うわっち! 冷たかっ!」
たった今孝治のうなじに、洞窟の冷水が滴{しずく}となって、ポタリと落ちてきた。
どうでもよい現象であるが、このような冷たい滴はなぜか、百発百中で人の素肌に命中するパターンなのだ。
「ほんなこつ、どげんでもよか話っちゃねぇ☠」
などとナレーションに文句を垂れつつ、孝治は洞窟の奥へと、さらに歩みを進めた。
現在洞窟の中は涼子が自身の幽体を真ん丸にした発光球によって、内部全体が明るく照らされていた。おかげで視界の先に支障はなく、進行にはなんの問題も起こらなかった。
当然に日明が、自力で宙に浮いている光の玉に大きな興味を示していた。
「これは凄いでにゃーかね、友美クンとやら☆ これは必ずや決定的に研究をして、是非とも科学と魔術の融合をやってみたいもんがんにぃ☆☆☆」
「ははっ☻ そ、そうですっちゃね☻☻」
涼子の発光球を自分が作ったことにしている友美は、もう思いっきりに苦笑するしかないようだ。
それはまあ置いといて、洞窟内には別の声も響き渡っていた。
「只今我々洞窟探検隊は、この新発見である人跡未踏と思われはる謎の洞窟を、一歩一歩と慎重な歩みをもって進めているところでんがな☕」
これもまた特に問題なしなのだが、吟遊詩人の二島が、なぜか勝手にリポーター役を務めていたりもする。
「この先にいったいどんな怪物が潜んでいるものやら、見通しがまったくわからへん中を、我々洞窟探検隊は零下にも等しい体感気温にもめげず、なぜか汗をたらたらと流しながら、なおも前へ前へと進んでおます♐ 見回せば隊員たちの全身が、なにやら武者震いのように震えている様子が、この私の目にもはっきりと見えはるようでおまんのや⚠」
正直言って、孝治はうるさい思いがしていた。
「なんや、昔こげなシチュエーションの団体が、あったような気がするっちゃねぇ☻」
それでも二島が人畜無害なだけ、まだマシなほうと言えるかも。むしろ別問題の障害として、サングラス野郎のセクハラが、この期に及んでも一向に止まらない傾向にあった。
「先輩……またおれの尻ば撫で撫でしてからにぃ♨」
「よかよか♥♡ オレとおまえの仲やないけ☀☺☻」
「しゃーーしぃったい! こんド変たぁーーい!」
でもってボカツンと、孝治の右足回し蹴りが、荒生田の顔面に炸裂するわけ。これはもう洞窟に入って通算十八回にも及ぶ愚行なので、友美も裕志ももはやツッコミ飽きていた。無論日明と徹哉は我関せず。さらに二島までが、ナレーションであっさりと流すだけで片付けていた。
「今、荒生田隊長が、我々の眼前より一瞬にして消失しはった模様でんがな☺ しかし隊員たちの前進にはなんらの影響もあらへんようなので、探検はこのまま続行されるようでありますさかいに☞☛」 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |