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『剣遊記14』

第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。

     (5)

 石ころはビューーンと道の左側の藪に飛んで、なにかにコツンと当たる音がした。

 

「痛っ!」

 

「うわっち?」

 

 これをどこかで聞いたような声だと思えば、なんてことはなかった。

 

「な、なんね♋ なして裕志がそこにおるっちゃね?」

 

 藪の中からゴソゴソと、黒いフード付き魔術師衣装である裕志が顔を出した。しかも孝治の蹴った石が、頭頂部に見事命中したらしい。右手でその当たったらしい部分を撫で撫でしていた。

 

「ほんなこつ痛かぁ〜〜☠ いきなり石ばぶつけるんやけ、ちょっとあんましやなか☢」

 

 裕志にしては珍しく、けっこう本気で怒っているようだった。それでも日頃の小心が災いしている要素もあるみたい。なんとなく迫力に乏しい部分が、裕志らしいと言えば裕志らしかった。両目が涙目になっていて、口では文句をタラタラと垂れていても、それ以上はなにもする気がなさそうなので。

 

 さらにわかっている話ながら、裕志には当然『おまけ』が付いていた。

 

「で、先輩まで裕志といっしょになって、なんしよったんですか?」

 

 孝治の目線は早くも裕志を飛び越え、そのうしろに取り憑いている背後霊――ならぬサングラス😎の戦士に向いていた。

 

「ふっ、さすがはオレの後輩っちゃね✌ オレの気配ば見破ったんは、大いに誉めてやるけんね

 

 藪の中からさらなるゴソゴソで、荒生田が不敵な笑みを浮かべながらで顔を出した。それからヌケヌケとほざいてくれた。

 

「なんしよんっち、決まっとろうも☻ 女ん子ばっかしふたり、こげな密林の中で迷子にさせるわけにはいかんちゃけ☜☞ やけんこんオレと裕志で、ボディーガードば務めてやるっちゅうことばい

 

「密林っち……ここっちふつうの観光地なんやけどねぇ

 

 友美が荒生田の妄言に、小声で疑問を投げかけた。

 

「友美の言うとおりばい それにおれたち、各自で調査ばするんが目的で、こげんしてグループ分けして活動しよっとでしょうが♐ それなんに先輩たちがおれたちといっしょになったら、なんの意味かて無かでしょうに

 

 孝治も友美に続いて正論を投げかけてやった。だけどやっぱり、このサングラスには通用しなかった。

 

「いやいやいや、おまえらがそげん言うたかて、レディーの皆さんば守るんは戦士であり紳士であるオレたちの役目ばい✌ ここはまあ、こんオレたちに任せんしゃい☻♪」

 

「なん任せるっちゅうとね?」

 

 などと疑問満載の思いである孝治は、もはや眼中にあらず。

 

「ゆおーーっし! これにて荒生田和志探検隊の初出陣ばぁーーい!☆ 我々はこれから前人未踏の大魔境へ、この足ば踏み入れるっとたぁーーい☛☞」

 

「こりゃほんなこつちゃーらんわ☠ こん人、人ん話ばいっちょも聞かんとやけ☠」

 

 長い付き合いでわかってはいた。やけどきょうは、その極限みたいっちゃねぇ――と、孝治はここでも顔に出さないようにしてため息を吐いた。


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