『剣遊記14』 第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。 (29) 「ちょい貸しちゃってや☻」
「きゃあっ! エッチぃ!」
念のために申しておくが、悲鳴の主は裕志である。その原因は、孝治によって無理矢理黒衣を脱がされたため。
唯一の外出着とも言える黒衣を取られた裕志は、世にも情けない白シャツとブリーフ一枚だけの格好となった。
「はい、これ☺」
孝治は裕志から取り上げた黒衣を、友美に向かって投げ渡した。
「ありがと♡」
友美はためらうことなく、すぐに裕志の黒衣を身にまとった。
なにしろ今の彼女は、完全なる真っ裸。周囲にヤローたちの目も増えてきたので、ここは遠慮などをしている場合ではない。
友美は一応これで良しとして、問題は孝治自身にも大いにあった。
無論こちらも、いまだ完全なる真っ裸。超変態サングラスが復活しないうちに、孝治も衣服を確保する必要が大有りと言えた。
そこでまずはとりあえず、自分よりも先に、友美に裕志の服を着させてあげた。孝治はその勢いのまま、自分に背中を向けてくれている二島と日明、さらに遅れて現場に到着した徹哉に顔を向けた。
三人とも孝治と友美を気遣ってくれてか、ふたりの裸を極力見ないように努力していた。しかし二島はけっこう気が優しいからわかるのだが、変人としか思えない日明までが紳士ぶった態度であることを、孝治は顔にも声にも出さないようにしながら、思いっきり意外に感じていた。
(人っちほんなこつ、見掛けに寄らんもんやねぇ……♋)
この思いは脇に置く。
「……っちゅうわけたい♐ 誰でもよかっちゃけ、早よおれに服ば貸してくれんね⚠」
「そうでんなぁ……☁」
孝治の頼みに、困りましたなぁ――と言いたいような二島が、背中を向けたままで応じてくれたときだった。彼よりも早く、なぜか日明が孝治に応えてくれた。
「わかったがや☺ 徹哉クン、チミの服を孝治クンに、はよ貸してあげるがや☛ このまんまじゃぎょうさん、ドえりゃあごぶれいの連続だがね☻」
「ハイ、博士ノオッシャラレルトオリナンダナ」
すると徹哉はなんの疑問もない感じ。言われたとおり、自分の紺の背広とズボンを、パッパパッパと地面に脱ぎ捨てた。
「……あ、ありがと……☁」
簡単に衣服の件は解決したものの、孝治のほうこそ瞳が点の思いとなった。
「おまえ、いいとや?」
孝治は思わず尋ね返した。ちなみに背広を脱いだ徹哉の格好は、まあ裕志と同じ。白のランニングシャツに、下は青と緑の縞模様が入ったトランクスだった。
「……意外とフツー過ぎて、なんか言うことがなんもなかっちゃ……なんやけどぉ♋」
それでもなんだかんだと言いながら、徹哉から借りた背広とズボンを、孝治は急いで着用した。なんと言ってもいつまでも裸のままでいては、前述のとおり、あのスケベ大魔王の復活を招いてしまうからだ。
「では孝治はん、これを✋」
「うわっち?」
ふだんの軽装鎧とはまったく違うとは言え、なんとか裸からふつうの姿(多少、違和感あり☻)へと戻った孝治に(蛇足だけど、下着は穿いていない)、二島がある物を差し出してくれた。
孝治愛用の中型剣であった。
「ど、どげんして、これば持ってきてくれたと?」
考えてもいなかった二島のサービスに、孝治は『なん企んどるとや?』の本心を隠しつつで尋ねてみた。
二島は「ははは☺」と笑いながらで答えてくれた。
「いやあ、孝治はんは戦士の端くれなんやさかい、なにはともあれ、真っ先にこれが必要となりまんのやろ☞ これくらいなら吟遊詩人の端くれである私にも、最低限で理解できることでおまんがな☻」
「と、とにかくありがと……やね☺」
恐る恐るながら孝治は、二島から剣を受け取った。そのついで、もうひと言おねだりもしてみた。
「剣はありがたかなんやけどぉ……せっかくなんやけ、おれと友美の服と鎧も持ってきてほしかったっちゃねぇ☹」
二島はこれにも、笑顔で言葉を返すのみ。
「まあまあ、私かて大事な竪琴を持ってまんのやで☕ そんなもんやさかい、服まで持ってきはるには、もう両手がいっぱいやったってことでんがな✋✋」
「まっ、仕方なかやねぇ☻」
これ以上の贅沢を言っても意味がなし。孝治は一応、自分で自分を納得させた。このあとすごく面倒な作業になるが、今からあの洞窟まで戻って、自分たちで服と鎧を回収するしかなさそうだ。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |