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『剣遊記14』

第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。

     (28)

 声の主は言わずと知れた、吟遊詩人の二島であった。

 

 孝治は裏返った声を承知で叫んだ。

 

「な、なして二島さんが、こげなとこにおるっちゃね!」

 

 返事は明解だった。

 

「こないなとこもなんも、孝治はんらが行ったあと、私らは私らで洞窟から池田湖まで戻ることにしましたんやわ☚ それよりあんさんらこそどないして、地下の湖からこないなけったいなとこに出よりましたんや?」

 

 逆に二島から尋ねられて、孝治は歯切れの悪い思いとなった。

 

「そ、それはぁ……今すぐでも説明したいとやけど、とにかくおれも友美もすっぽんぽんなんやけ、服のあるとこまで早よ行かせちゃってや!♋」

 

「ぬわに? すっぽんぽんがやかぁ☆☀」

 

 次に出てきた声の主は、もしかして危険人物の日明。

 

 早い話が最悪の展開。日明に続いてヤローどもからなるメンバーが、続々と顔を出してきた。夜の月明かりと涼子の霊光に照らされて。

 

「うわっ! 孝治っ! まぶし過ぎっちゃよ!」

 

 これは孝治の裸をもろに見て、早くも狼狽したに違いない裕志の叫び。

 

「うわっち! 裕志っ! あんまし大きか声ば出すもんやなかっ!」

 

 裕志を鎮めさせようとした孝治の理由は、ズバリこれに尽きた。早く服かなんかで裸ば隠さんと、もっと危険なヤローが出てくるやろうもぉ――と。

 

 無論事態の展開は、さらに最悪の方向しか有り得なかった。

 

「ゆおーーっしぃーーっ! マッパの孝治がおるとねぇーーっ!」

 

 池田湖の湖畔に点在している藪のひとつから、サングラス😎の大魔王が突如飛び上がったのだ。

 

「言わんこっちゃなかぁーーっ! いっちゃん面倒なんが出たっちゃやなかけぇーーっ!」

 

 孝治は飛びかかる荒生田の顔面に、真正面から必殺の飛び蹴りをドカンと喰らわしてやった。

 

「オレは史上最高の幸せモンちゃあーーっ!」

 

 鼻血の飛行機雲を噴出させながら、荒生田が後方五十メートルの先まで吹っ飛んでいった。

 

「やけん、言わんこっちゃなかと☠」

 

 湖畔で立ち尽くしたまま、孝治は興奮気味に吐き捨てた。すべては真っ裸のままで決行した所業であった。


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