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『剣遊記14』

第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。

     (27)

「やったぁ……陸上ばい……

 

 ようやくの思いになって、孝治は砂浜らしき場所に上陸を果たした。

 

 かなり疲れ切っている様子の友美(術を解いて人間に戻った)を、自分の右肩で支えるようにして。

 

 無論今さら言うまでもなく、ふたりとも(孝治と友美)一糸も身にまとっていない格好。だけど今は、それどころではない。

 

「ふぅ〜〜、疲れた……

 

 疲れ切っている様子とはいえ、友美はまだまだ、自力で立てるだけの体力を残しているようだ。それでも孝治の助けから離れると同時に、彼女は地面にペタンと尻を付けた。

 

「予想しちょったよりはだいぶんマシなんやけど、やっぱ初めての変身魔術は疲れるっちゃねぇ☕⛐ 今度使うときは気ぃつけとこ

 

「そうっちゃね✍ 美奈子さんの偉大さっちゅうもんが、今さらなんやけど、ようわかったような気もするっちゃよ 友美もほんなこつ気ぃつけるっちゃよ

 

 孝治は周囲をキョロキョロと見回しながら、友美にねぎらいの言葉をかけてやった。それからさらに申し訳ない気持ちにもなって、そっとささやいてみた。

 

「それと、ごめん、友美……周りに裸ば隠すモン、なんもなかみたい☢」

 

 などと、一応口では謝っても、すでに孝治自身は、完全なる開き直りの心境でいた。なぜなら孝治は、自分の裸を、友美の前に堂々と晒しているからだ。それも大事な二箇所(?)を隠す気すら、もはやさらさらもなかった。しかし孝治の裸を目の当たりにしている友美とて、今はまったく同じ全裸姿でいるのだ。

 

「よかっちゃよ わたしも孝治とおんなじやけ

 

 友美も孝治と同様、自分の裸を恥じらう素振りなど、これまた微塵も見せなかった。とにかく砂浜の上で座り込み、今は疲労回復に専念していた。

 

 このふたり(孝治と友美)のおおらかさと開放感は、今やここまで進展(?)を遂げている――と言うべきか。もしかすると、身近に日頃からの裸族がいるので、孝治も友美も、彼女の影響を知らず知らずのうちに受けているのかも。

 

 その根本的原因と言えそうな、裸族(?)の彼女が言ってくれた。もっとも彼女は今もって、裸族型ではなく発光球スタイルのままでいるのだけれど。

 

『それにしたかて、ここっていったいどこなんやろっか?』

 

 やはりいっしょに陸上まで上がってきた涼子が、当然すぎる疑問を、孝治と友美相手につぶやいた。彼女はいまだに、周囲を煌々と照らし続けていた。

 

 孝治はキョロキョロを続けながら、涼子に自分の考えを言ってみた。

 

「なんか見たことあるような気がするっちゃけどぉ……水に潮の匂いがせんけ、なんか淡水の湖って感じっちゃね

 

 実はこれも先ほどから気づいていることなのだが、孝治たちの前に広がる水面からは、なぜか海の匂いと言える雰囲気が消えていた。それよりもむしろ、内陸の池や湖のような、少しドロ臭い香りすら漂っていた。

 

「……もしかして、ここってぇ……☁」

 

 いつもどおりのパターンで、友美が一番最初に、なにかに気がついた感じ。

 

「なんか、わかったとや?」

 

 孝治はすぐに、友美へ顔を向けた。おれのでっかいおっぱいば見て、友美が気ぃ悪うせんやろっか――と、よけいな心配もしながらで。

 

 ところがまあ幸い。友美は胸の件についてはなにも触れないまま(?)、状況の推測のみを言ってくれた。

 

「……ここっち、池田湖とちゃうやろっか? この湖岸、それにたぶんあっちが南側っち思うっちゃけどぉ……あれ開聞岳とちゃうやろっか? っちゅうことは、もう何回も見た場所によう似とうけ

 

「うわっち!」

 

 一難去ってまた一難。孝治は驚きのジャンプを、ここでも繰り返した。友美から言われて改めて見れば、やはりだった。現在いる場所はもう何度も何度も往復を続けた、池田湖の湖畔であったのだ。

 

 さらに重大な事実にも、孝治は同時に気がついた。

 

「するとこん池田湖っち、おれは初めて知ったっちゃけど、あのけっこう長かった洞窟で海と繋がっとったんやねぇ♋ ついでに言えば、あの地底の湖ともやね♐」

 

 そこへ聞こえる、とぼけた口調の声。しかもそれは、孝治たちのよく知る声でもあった。

 

「なんや、孝治はんらやおまへんか♠ こないな所でなにしてまんのや、いったい?」


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