前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記14』

第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。

     (26)

 しかしこれで絶体絶命かと思えば、実はそうではなかった。

 

(ヤバっ! また行き止まりけ! ……おっと、ラッキー? ……☻)

 

 海底断崖にはやはり洞窟のような穴が、ポッカリと口を開けて孝治たちを待ち受けていた。ただしその穴は、最初に孝治たちの通った洞窟とは、位置的に考えてもまったく別のモノだった。無論今は、その程度の違いを気にする場合ではない。

 

「ごぼぉびぃっ! ばごばがべげべぇーーっ!」

 

 つい弾みで口を開いたのだが、孝治は次のように言いたかった。

 

(友美ぃっ! あの穴に入るっちゃあーーっ!)

 

 しかし日本語にはならなかったものの、友美は孝治の意を、きちんとわかってくれた。さすがに何年もの付き合いは伊達ではない。友美は孝治を自分の背ビレにつかまらせたまま、スイッと流線型の体を、あまり大きくはない洞窟の中へと一気にすべり込ませた。

 

 そのあとから涼子の発光球も飛び込んで、せまい洞窟内を照らしてくれた。

 

(さっきのとおんなじような造りっち思うっちゃけど、けっこう長そうな洞窟っちゃねぇ いったいこの海には、いくつ海底洞窟があるっちゃろっか?

 

 水中でありながら、孝治は瞳を凝らして、前方を見つめてみた。あくまでも涼子の霊光が届く範囲内なのだが、洞窟は細長い形状で、ずっと奥まで通路のように続いていた。しかも水流が奥のほうからこちらに向かって流れているようなので、先のほうに出口がある様子も確実といえた。

 

(……今はこん洞窟ば行くしかなかっちゃね♐)

 

 声には出せないので頭の中でつぶやきながら、孝治はそのついで、うしろに振り返った。どうやらあのタコワニモンスターも、洞窟の入り口に到達したようだ。従ってこのまま現在地で愚図愚図などしていたら、またあの長い触手が、洞窟の中まで忍び寄ってくるだろう。

 

見たところ、初めの洞窟と違ってかなりせまいようなので、タコワニのような図体のデカいモンスターが、中まで入ってくる恐れは少ないようだ。だけど万が一の場合を考えると、ここでも逃げるが勝ちを実行しないといけない。孝治は友美の背中を左手でチョンチョンと突いて、それから前方を同じ左手で指差した。

 

 早く奥に行こうっちゃ――という合図である。

 

 友美もすぐに、イルカの頭部を上下させた。つまりが『了解』ってこと。

 

 涼子のおかげで照明には困らないので、洞窟の中の走破――いやいや泳破は容易だった。三人はさほどの時間をかけないで、洞窟の中から広い空間へと飛び出した。

 

 一応まだまだ、水中ではあるけれど。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system