『剣遊記14』 第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。 (25) そんな進退窮まった場面であった。
『いいとぐっはここ、こけけっ!』
いきなり孝治の耳に――ではない。頭に直接、なぜか鹿児島弁の声が聞こえてきた。
孝治はすぐに、その言葉の意味を理解した。
(うわっち? 今のは鹿児島弁で『入口はここやけ、こっちに来なさい』ってことっちゃね☀ とにかく涼子の声とは全然違うみたいっちゃ✄)
これでも孝治は、全国を股にかけて旅をする、冒険者の端くれ。各地方の方言も、それなりに勉強しているのだ。
(と、とにかく、こっちっちゃね!)
水中での発声が聞こえる謎。さらに声の持ち主の正体うんぬんは、この際これまた棚の上。孝治はその発声源と思われる方向に、泳ぎの進路を即断で定めた。
するとすぐに、友美も遊泳速度を上げたらしい。うしろから孝治の右脇にすり寄り、初めと同じようにして、背ビレをしっかりと孝治につかまらせてくれた。
(もしかして……なんち思いよう場合やなかっ! 絶対友美にも、今の鹿児島弁が聞こえたっちゃね!)
これはあとで、友美に確認すればよい話でもあるが、この時点で孝治は確信した。
とにかく今は、何事にもこれ以上の疑問をはさむ余地はなかった。すでにうしろへ振り返る余裕すらないが、あのタコワニモンスターも触手状の両腕で水をかいて、孝治たちを追ってきているに違いないからだ。
もちろん涼子は今も周辺を照らしてくれているのだが、その照明の下、前方に崖のような海底の断崖が見えてきた。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |