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『剣遊記14』

第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。

     (24)

 このような孝治の推測の間に、友美が見事、足に絡んでいた触手を、バキッと噛み切ってくれた。イルカ類の歯などサメに比べて弱々しいものだが、それに構わず友美は頑張って、長い触手にガブリと噛みついてくれたのだ。

 

とにかくこれにて、孝治はようやく死中に活を得た感じ。大慌てで両手両足をバタつかせ、タコとワニの合体である新種のモンスターから泳ぎ離れた。

 

 バンドウイルカの友美と発光球の涼子も、孝治のあとに続いていた。

 

 とにかく今の状況では、まるで勝負にならなかった。孝治は究極の非武装無防備スタイルだし、友美はイルカに変身しているのだが、せいぜい触手に噛み付くか体当たりするまでが、精いっぱいの反撃であろう。なぜワニが海にいるのかの問題は棚に上げて、中型のイルカと大型のワニではワニのほうが本気になれば、それこそ簡単にイルカがエサにされると言うものだ。実際に二メートル大の友美変身であるバンドウイルカに比べて、タコワニモンスターのほうは、どう見ても三倍以上の体格差がありそうだ。またこれと同じような大きさの差で、涼子のポルターガイスト{騒霊現象}も、恐らく効き目がないに違いない。

 

 早い話が、逃げるが勝ち。

 

 しかし涼子の照明ありとは言え、海の底では西も東もわからない状態。いったいどちらの方向へ泳げば、地上である薩摩半島の海岸にたどり着けるものやら。孝治は海底にて、一時的な方向音痴状態となっていた。

 

(うわっち! しまったっちゃあ〜〜! どっちば泳げば陸に着けるとやろっかぁ♋♋?)

 

 孝治は海中で前後左右をキョロキョロとしたが、自分自身の正確な位置さえ、まったくわからない状況。つい不安でうしろに振り向けば、バンドウイルカの友美と発光球の涼子も、同じような感じで行く先を計りかねている様子でいた。ふたり(友美と涼子)とも現在、人としての表情がわからないのだが、行動その他で、これくらいの想像は孝治にもついた。


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