『剣遊記14』 第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。 (23) (な、なんね、これぇーーっ!?)
孝治の右足に巻き付いているモノは、なぜか非常にニュルニュルムニュムニュとした、ヒモ状の物体だった。おまけにそのヒモ状物体には、大小の吸盤らしき突起物が、実にそれらしくセットもされていた。
これが孝治の右足を締め付けているのだ。
「がぼぁがばぁっ!」
水中では声を出せないことはわかっていた。それでも孝治はつい口を開いて、空気泡混じりの悲鳴を上げた。
そんな状況下でも瞳を凝らす余力は残っていて、孝治は自分の右足に巻き付く、得体のしれない長いモノに顔を向けた。確かにそれは、ずっと以前に遭遇をした経験のある、まさに巨大ダコ{ジャイアント・オクトパス}の触手に間違いなかった。
(こ、この海にも大ダコがおったっちゃね!)
実戦経験は一度あるのだが、これは厄介な怪物が現われたもんばい――と、孝治は海中で舌打ちの思いとなった。
無論今以上にもっと激しい抵抗をしない限り、タコのエサは確実の状況。幸いにも友美がすぐに気がついて、孝治の右足に絡み付いている触手に、ドカン(水中では無音なので、イメージ上の音)とイルカの全身で体当たりをしてくれた。
涼子もこれらの光景を、頭上から明るく照らしていた。
そこで孝治の瞳に写ったモノは、想像以上に異常なシロモノだった。
(タ、タコやなかっ!)
触手が伸びている先には、丸いタコ特有の胴体がなかった。むしろ割とずんどう型をしている円筒形――に近いと言うべきか。おまけによく見れば、胴体から伸びている触手は二本のみ。まさに孝治の瞳の前に存在しているモノは、ずんどう型円筒形である胴体の左右から、長い二本の触手が伸びている姿であった。しかも胴体の前部には明らかなる頭部があり、ふたつの光が爛々と、涼子の霊光に照らされて反射をしていた。
その涼子の霊光で反射しているふたつの光は、明らかに生物の眼であった。それからなんと、その生物が口をグワッと大きく開いて、孝治たちを猛烈に威嚇してくれた。
(うわっち!)
口の中には海の猛者――サメ類の歯など問題にならないくらいの、巨大極まる牙が何十本も生えそろっていた。
(タ、タコやなかけど……両手がタコの触手になっちょう新種のモンスターばい、こいつ!♋)
触手の絡みに必死のあがきと抵抗を続けながら、それでも自分で意外に思うほどの冷静な頭でもって、孝治は新種モンスターの全体像を見回そうとした。しかし巨大過ぎてなかなか全体像がつかみがたいのだが、そのモンスターはまさしく、ただの巨大ダコとはまったく異種の生物のようだった。
少々強引な気もするが、孝治も動物園で見た覚えのある大型の爬虫類――もしかしてワニに似ているのではなかろうか。
ただ、ワニとは大きく違い過ぎる点も、これまたよくわかる感じがした。それは両方の前足があるはずの部分から生えている物体。今や散々苦労の元となっている、タコの触手なのだ。
全体像はまだつかめないが、このモンスターのうっすらと水中に浮かぶ姿を見て、孝治はその正体を、なんとかして判断した。
(こ、こいつ! 誰が作ったかは知らんちゃけど、絶対に魔造のキマイラばい! 野生にこげなんおるわけなかっちゃけ!)
つまり大型爬虫類であるワニに、タコの触手を両腕として付属させたモンスター。物好きな魔術師が時々創作する、超迷惑魔造怪物というわけ。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |