前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記14』

第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。

     (21)

 地底湖の底は、涼子の霊光のおかげで、青白く幻想的で優美とも言える光景になっていた。

 

 湖底の所々に点在している岩石が、それこそ白く反射をして、まさに美の主張をしているようだった。

 

 孝治は友美の変身であるバンドウイルカの背ビレにしっかりとつかまったまま、その湖底を優雅に遊泳していた。

 

 孝治と友美の頭上には発光球である涼子が光り輝き、視界にはなんの支障も起こっていなかった。ただふつうの魚たちの姿が一匹も見当たらない状況が、やや寂しいと言えば寂しい現状なのだが。

 

(モンスターみたいなんは、今んとこなんも見かけんようっちゃけどぉ……それにしたかて小魚がいっちょもおらんっちゅうのも、また変ちゃあ変ばいねぇ☠)

 

 この異常な状態も、やはり謎のモンスターの仕業なのだろうか。水中にいながら孝治の背中を、これまたなにか冷たいモノが駆け抜けた。

 

 それから孝治は、いったんイルカ――友美の背ビレから手を離し、自分自身での水中探査を試みた。

 

 地底湖は先に日明が調べたとおり、やはり海の塩水が混じっているようだ。そのためだろう。淡水性の水草などが、一本も周囲に見当たらなかった。

 

 孝治は友美の近くまで再び泳いで、大きな右側の横っ腹を、チョンチョンと左手で突いてみた。お互い水中呼吸の術にかかっているとは言え、やはり直接の会話は不可能な状態(しかも友美は変身中。イルカは人語をしゃべれない)――なので、孝治は合図に気づいた友美の前で右手の人差し指を差し示し、進行方向の変更を促した。

 

 友美もすぐ、自分の前を泳ぐ孝治のあとを追って、うしろからおとなしく従ってきた。

 

 そのふたりが一直線になって泳ぐ光景を、涼子の霊光が上から追い駆けていた。孝治の目指した先には、大きな新しい洞窟のような穴が、ポッカリと口を開いていた。

 

 これは孝治の勘なのだが、その洞窟にもなにかの秘密がありそうだった。

 

(なんか今回の冒険はヤケに、洞窟ばっかしに縁があるっちゃねぇ☻)

 

 声には出さないが(元々出せない)、孝治は内心で苦笑した。それはそうとして、はっきりと言って友美と涼子から丸見えとなっている、孝治の全裸姿であった。だけど孝治は、不思議とまったく恥ずかしい気にはならなかった。

 

 なにしろ自分以外の女の子ふたり(友美と涼子)は、現在人ではない姿になっているのだ。これは本人たちが知ったら気を悪くするかもしれないが、人ではないモノからいくら裸を見られたところで、全然平気になれる心境のせいなのかもしれない。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system