『剣遊記14』 第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。 (20) 孝治の感心と驚きが半々であるセリフのとおり。今瞳の前に、全長二メートルから二メートル半ほどのイルカが遊泳をしていた。そのイルカの頭上に場所を変えて照明を与えながら、涼子がさらに解説をしてくれた。
『このイルカ……たぶんきっとバンドウイルカっちゃね✍ 前に友美ちゃんといっしょに動物の図鑑ば見て、すっごく可愛いち、ふたりで言ったっちゃけ☺☻』
「なるほどねぇ〜〜、バンドウイルカに変身けぇ☕⛑」
孝治は改めて友美に感心した。もちろん孝治とて、バンドウイルカが海の愛嬌者として、いろいろな人たちから愛されている話も知っていた。しかも、今瞳の前にいるバンドウイルカは、友美が変身をしたまさにアイドル決定版のイルカなのだ。これならば彼女にピッタリ。むしろ海で錦鯉などに変身するよりも、よほど常識的な選択と言えそうだ。
強いて疑問を言えば、なぜ水中呼吸のできる魚類ではなく肺呼吸の海棲哺乳類を選択したかについてだが、これはすべてが終わったあとで、友美自身が説明をしてくれた。曰く魚類のほうが水中活動が便利なのはわかっているんだけど、この点も美奈子から習った二重魔術で変身と水中呼吸が同時に使えるので、やっぱり可愛いイルカになったとのこと。
無論孝治も納得である。やや御都合主義の色が濃いような気もするけど。
「これはおれの予想外以上やったけど、友美がイルカに変身してくれたら、ほんなこつ恐いモンなしっちゃねぇ✌ それこそ鬼に金棒……いんや百トンハンマーってもんばい⛽ それじゃ友美、頼むっちゃね⛴」
すっかり気を強くした孝治は、イルカ変身中の友美に向かって呼び掛けた。その声がきちんと聞こえたようだった。友美変身であるバンドウイルカが、湖面の浅瀬に立つ孝治の元まで、静かに泳いできてくれた。
二メートル半くらいの大きさであれば、並み居るイルカの仲間では、むしろ小型の部類であろう。それでもこれ以上はないほどの、最強水中同行者と言えるかも。友美もその点を考えて、なにが潜んでいるのかわからない水中探査のため、水中ではけっこう強者的生物である、バンドウイルカを選択したのだろう。
「友美、頼りにするっちゃね♡」
孝治はバンドウイルカの右側に自分の裸の身を寄せて、背中の背ビレを両手でつかむ格好となった。
このまま友美といっしょに、水中探査へと向かうために。
また一般的にイルカ類の肌はとてもなめらかな例が多いのだが、友美の変身はまさにそのとおりだった。
「うわっち! 友美の肌、すっごいすべすべばい☆」
孝治はこれにも仰天した。自分の肌に密着している友美変身のイルカ肌が、とにかくとても気持ちが良いのだ。まさに体色こそ人の肌色から青に変われど、さわり心地の良いやわらかい感触をそのまま保っていた。おまけにチラリと孝治は覗いてみたのだが、イルカの瞳はまさに、優しい友美の瞳そのままを維持していた。
「これも友美流の気遣いっちゃね☺」
さらなる良い気分になった孝治は、そのまま友美といっしょ、水中にジャブンと身を沈めた。
『あっ! ちょっと待ってっちゃよぉ!』
あとから涼子の発光球も、慌てた感じで水中に潜ってきた。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |