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『剣遊記14』

第三章 行け行け! 荒生田和志探検隊。

     (12)

 夢想は突然、ひとりの乱入男によって妨げられる結末となった。

 

「うわっち!」

 

 夢想――あるいは妄想から現実に引き戻されてみれば、ここは涼子の発光球のおかげで一応明るい洞窟の中。夢ではなくて実在の地底の湖が、今も孝治の瞳の前に広がっていた。

 

「くぉらぁ! 孝治ぃ! おまえなん昼間っから、なん白日夢なんぞに浸っとうとやぁ♨」

 

「うわっち! 先輩っ!」

 

 現実に戻ってみれば、瞳の前にはサングラスの奥で三白眼を光らせる、ある意味見慣れた荒生田の超どアップ顔があった。孝治に蹴り飛ばされてどこかへ消えたはずだが、なんの意味もない不死身性を発揮して、早くも現場に戻ってきたようだ。

 

「ゆおーーっし! おまえら、話の急展開ば前にして、なん夢うつつな顔しとうとや! しっかり目ば覚ましんしゃい!」

 

「うわっち! うわっち! す、すんましぇん、先輩……♋」

 

 珍しくも荒生田からの真面目な叱咤を受け、孝治はしゅんと頭をうな垂れさせた。

 

「そのとおりだがねぇーーっ!」

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 それからまさに、傷口に塩の塊。なぜか怪人――日明までもが、孝治攻撃に加わってきた。今までけっこう、静かにしていたというのに。

 

「この偉大なる大科学の大発展の最中に、夢と居眠り(-_-)zzzに浸る暇を作るとは、いらんことこそばゆい愚行なんだがねぇ! そうだろ、徹哉クぅーン!!」

 

「ハイ、ソウナンデスナンダナ、博士」

 

 日明が興奮すれば当然なのだが、徹哉までがしっかりと相槌を打っていた。

 

「な、なして……こんふたりまで調子に乗るとやろっか?」

 

 もっとも根本的である孝治の疑問的つぶやきに、裕志がそっと、耳打ちで教えてくれた。

 

「さっき日明さんが先輩に言いよったと♐ こん湖には絶対、なんかおもしろかことがあるがやっちね☠ これはもしかして……なんやけど、日明さんも徹哉くんもぼくたちの発見ば、横取りしようち狙ろうとるんやなかろっか? ついでに先輩もやね☻」

 

「ほんなこつ、有り得そうな話っちゃねぇ☢」

 

 孝治は思わず舌打ちをしたが、話ばとにかくおもろくしたい荒生田先輩やったら、こんくらいすぐに乗ってくるっちゃろうねぇ――と、改めて苦笑の気分にもなった。

 

 ついでに洞窟内を、孝治はキョロキョロと見回した。二島も当初から変わらず、ひとり元気なナレーション兼リポーターを、まるで生きがいのように演じ続けていた。本当にうるさいからもう、なにを言っているのかについては触れないようにするけど。

 

 それはそうとしても、日明の剣幕は、いまだ収まらずの状態であった。

 

「孝治クンとやら! チミがそういう現実逃避主義者であったとは、きょうのきょうまで知らなんだわ! これもある意味世も末だがねぇ……♋」

 

「きょうのきょうまでっちゅうたかて、知り合{お}うたんは最近なんやけどねぇ……♋」

 

 孝治のブツクサ的文句など、三人(荒生田、日明、徹哉)の耳には、完全に入らずの感じ。孝治はたまらない気持ちになって叫んだ。

 

「わかった! わかったっちゃ! そげん三人がかりでおれば責めんでもよかろうもぉ!」

 

 ついでに両手を子供のように、ブンブンと振り回しながらで。ところがそのとたんに、三人は急に静まり返ってくれた。

 

「ゆおーーっし! そげんこつにしとこうかねぇ

 

「うわっち?」

 

「そう言うことだがや、孝治クン☻ 徹哉クンもあんばよう(名古屋弁で『上手に』)これを教訓とし、決してすやくる(名古屋弁で『手抜き』)ことなきようにするがね♪」

 

「ハイ、博士、ナンダナ」

 

「なん自分たちばっかで勝手に騒いで、また自分たちばっかで勝手に話ば締めよんね♨」

 

 相変わらず孝治にはついて行けない、荒生田の気まぐれと自分勝手。さらに先輩に輪をかけた感じである、日明と徹哉の超奇行ぶり。多少の変形ありとはいえ毎度のパターンであるはずなのに、孝治はいまだに、このような状況に慣れない自分を自覚した。


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