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『剣遊記11』

第三章 旅の恋は一途。

     (8)

「あれ? ふたりとも、なんしよんね?」

 

 孝治は友美と涼子(見えない)を伴って、浴場まで足を伸ばしてきた。すると入り口ではなぜか、泰子と浩子が体操座りの格好で背中を壁に付け、なんだか妙な感じで、待機の姿勢を取っていた。

 

(シルフは人間とおんなじやけええっちゃろうけど、ハーピーにはこん格好ばきつかろうや☁)

 

 孝治には、そのように思えるほどだった。ふたりとも扉の前で陣取り、こっから先は誰も通さん――とでも言いたげな構えをしていた。

 

 それから案の定と言うか、雰囲気そのままだった。

 

「あいー、悪いんだげんどぉ……今は立ち入り禁止なんだぁ☢」

 

 澄ました顔をして、泰子が孝治たちに応じてくれた。これで孝治の頭に、ピン💡とくるものがあった。

 

「ははぁ〜〜ん☀ 沙織さん、またなんか企んじょるんやろ☠」

 

「あにぃ? わんだらわかったっちゃんいえー?」

 

 孝治は単に、一種のカマをかけただけだった。ところが浩子が、簡単に反応を返してくれた。彼女は隠し事が、まったくできない性分のようだ。

 

「さーいんだぁ〜〜☁☂」

 

 『駄目だこりゃ☠』の感じで自分の額に右手を当て、泰子が改めて孝治に答えてくれた。苦虫を十五匹ほど、噛んだような顔付きになって。

 

「バレたんははらわり(秋田弁で『腹立たしい』)なんだげどぉ、おめ、どいからそい聞いたんだぁ?」

 

「おれけ?」

 

 さすがに幽霊――涼子から聞いたとは答えられなかった。そこで孝治は少しだけ、話の方向性を変えてごまかした。

 

「おれは……心配して見にきただけっちゃよ☁ 帆柱先輩はカタブツで有名ちゃけど、もしも魔が刺してもうて間違ごうたことになったらいけんばい……って思ってやね☃」

 

「そいって、論理的にすったげ矛盾した弁解なんだがらぁ☠♐」

 

『きゃははぁーーっ♡ それってすっごくそんとおりじゃあーーん☀☆』

 

 泰子の鋭いツッコミを聞いて、涼子が孝治の真うしろで、腹をかかえて笑いだした。無論その姿は、泰子と浩子には見えていない――だろう。

 

「要するにぃ、心配さ表向きの理由にして、ほんとは事があらげるさ期待して、そいを覗きにきたんじゃねえか?」

 

「そ、そげなこつなか!」

 

 顔面真っ赤の思いになって、孝治は頭を横にビュンビュン二十回振りまくった。

 

 もちろんこれは、図星を突かれての行ない。恐らくこの程度の孝治の本心など、泰子はとっくの昔にお見通しなのであろう。それを踏まえてか。孝治にこそっと話しかけてきた。

 

「ほんとんこと言うと、わたすと浩子も中がなもかもねえところで、覗いてみるとこだったんだぁ♥ んだがらさっと、いっしょに見てみるべぇ★」

 

「そ、それっち……☁」

 

 孝治は思わず、ためらいの気分となった。なにしろ泰子から実に恥ずかしい自分自身の本心を聞かされ、それをまた面と向かって返事を迫られたものであるから。しかし背後からの悪魔のささやきが、孝治の決断を見事にうながしてくれた。

 

『せっかくやけん見に行くっちゃよぉ♡ ここは自分が要らん疑いばかけられるよか、先輩の名誉ば守るほうが、ずっと大事っち思うっちゃけどぉ☀』

 

「そ、そうっちゃねぇ……☁」

 

 もともとからその気でもあったので、こうなればまさに決断は早かった。

 

「じゃ、じゃあ……みんなで行こっか✈ 先輩の名誉ば守るためっちゃけ★」

 

 などと、しっかり自己防衛の予防線を張ってから、孝治は浴場の扉に、そっと右手をかけてみた。この行為は男性であれば大問題であるが、端から見ればこの場にいる者、全員が女性。従って並んで入っても、なんのお咎めもないはず――と思われたりして。

 

「こげなこつして、ほんなこつええとやろっか?」

 

 今まで黙ってはいたのだが、一応疑問を口にしながら、最後尾に友美がついていた。それから全員が入ったところで再び、そっと扉が閉められた。

 

 友美の手によって。


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