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『剣遊記11』

第三章 旅の恋は一途。

     (5)

「まあ、うちかてそんときの話し合いに入りもうして、特に異議もはさみまへんどしたし、お互いいちびり(京都弁で『調子に乗る』)ながらも裸を見せ合{お}うた仲でもあるんどすけどなぁ☢」

 

「うわっち!」

 

 美奈子のトゲだらけのセリフで、孝治は顔面が、さらに赤味を増す思いになった。

 

「あ、あれは……一種の不可抗力っちゃよ……☁」

 

 もはやなんの抵抗力もなし。説得力ゼロの言い訳を、孝治は繕{つくろ}うだけだった。

 

「それはそうとして……よう沙織さんたちまでが、こん件ば承知したもんちゃねぇ☀」

 

 美奈子はもともとから、性格に非常識の気があるので良し(?)。しかし友美は、三人娘(沙織、泰子、浩子)たちまでが孝治と相部屋を承諾したほうを、とても不思議に感じているようでいた。

 

 無論その点は、孝治も同感であった。

 

「そりゃおれかて、初めは『うわっち?』って思ったっちゃね♋」

 

「沙織さんかて孝治が元男性っちゅうこつ知っとうはずっちゃのに、寝るときもいっしょでええとやろっか? わたしが言うんもなんやけど、孝治も草食系っちゅうわけやなかっちゅうのにねぇ♐」

 

「おれが肉食系かどうかは自分でもわからんとやけど、沙織さんからは、夜は宿屋の布団部屋で寝てほしいっち言われとうっちゃよ☠」

 

 友美の疑問に孝治は、苦虫を二百万匹噛み締めたつもりの渋顔気分で応じてやった。

 

『それってなんか、可哀想っちゃねぇ☀』

 

 セリフの割には涼子の口調に、同情のニュアンスは少ないように感じられた。

 

『孝治が布団部屋で寝るとやったら、あたしが朝まで付き合ったげるっちゃね♡ やっぱしひとりじゃ寂しかでしょ♥』

 

「しゃーーしぃったい!」

 

 ここで孝治の発した怒鳴り声が、千夏にまたまた、よけいな不思議を抱かせる結果となった。つくづく我ながら、学習能力に縁が無さすぎ。

 

「やっぱりぃ、孝治ちゃん変さんですうぅぅぅ?」

 

 千夏からの疑惑は、もうほったらかすようにする。師匠の美奈子など、完全に無視の姿勢だし。それよりも孝治は腹立ちまぎれのまま、涼子に尋ね返してやった。もはや開き直りのレベルになって。

 

「ところで、おれに布団部屋で寝るように言った沙織さんたちは、いったいどこ行ったとや? さっきから姿ば見んとやけど☁」

 

 涼子はごくふつうに答えてくれた。

 

『沙織さんたちやったら、三人そろってお風呂に行ったっちゃよ☝』

 

「なんね、それだけね☚」

 

 涼子の平凡極まる返答で、孝治は安堵ともため息とも、とにかく自分でも区別のできない気持ちで、ゆっくりと胸を撫で下ろした。これで少なくとも沙織たちが不在の間、孝治は広い客室で、ノンビリとくつろげるからだ。しかし涼子の次のセリフで、孝治の安堵感は、見事ぶち壊しの展開となった。

 

『この宿の大浴場っち、男女混浴らしいっちゃよ✌ で、帆柱先輩が今ひとりで入っとうとこば狙って、沙織さんがいっしょに入るっち息巻いとったっちゃ☞☞』

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 今の孝治の大音響は、それこそ宿屋全体に響き渡る規模となった。


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