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『剣遊記11』

第三章 旅の恋は一途。

     (4)

 千夏からはなんと言われても、実際に仕方がなかった。ところがきょうに限って、美奈子までが鋭い指摘を入れてくれた。

 

「孝治はんもけったいなんどすけど、もっとぎょーさんけったいなこともおますなぁ✎」

 

「な、なんね? それって……♋」

 

 これに孝治は、やや不貞腐れ気味な返事を戻した。それから美奈子が、ズバリと言ってくれた。

 

「どないして孝治はんが、うちらと同じ相部屋なんでおますんやろ? うちも千秋も千夏かて、もう孝治はんの正体を知ってまんのにねぇ✄✐」

 

「うわっち!」

 

 これはまさに、元男の女戦士、最大の痛恨事へのツッコミだった。理由から先に述べるが、キャラバン隊が泊まれる宿屋を探してみると、ここが東海道の宿場町であるためか、どこも旅人で満室の店が多かった。そこでようやく見つけ出した宿屋も、空き室がたったのふた部屋だけ。ここは当然、男女に別れて泊まらないといけない成り行き。ところが孝治は外見そのまま。女性陣と相部屋にされたわけ。

 

「や、やきー……先輩がそげんしろっちゅうもんやけねぇ……☁」

 

 孝治の言い訳も、かなりに湿りがちだった。実を言えば孝治は帆柱に、自分も男性陣の部屋で寝たいと懇願していた。だけど、あっさりと却下させられた。

 

「それはまずかばい☠ 折尾にはおまえの正体ば黙っちょうままやけ、ここで変な誤解ば招きとうなか♀♂」

 

 けっきょく理由にもならないような理由で押し切られ、孝治は美奈子たちと相部屋にされたという顛末。

 

「孝治かて女性になってもうずいぶんになるとやけ、もう女子の生活習慣には慣れとうやろ☆ それにおまえは未来亭では男んときから、友美と隣りん同士の部屋に住んじょるやないけ☟」

 

「うわっち!」

 

 改めて先輩から言われてみれば、まさにそのとおり(思いっきり無理があるけど。そもそも友美とは同室ではない)。同時に後の祭り――なのであって、孝治はもうそれ以上、先輩に盾突く気にはなれなかった。

 

 しかしよくよく考えてみれば、帆柱のセリフは出発前の鍛練のときに言われた説教とは、かなりの部分で矛盾していた。もっともこれも、あとで気づいた話。今の孝治には、もはやそれに突っ込む余裕もなかった。


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