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『剣遊記11』

第三章 旅の恋は一途。

     (21)

 しかし当然ながら、折尾の後ろ向き的な姿勢に、すぐ沙織が噛みついた。

 

「なによ! せっかく認めてくれるんだったら、こっちを向いてくれてもいいじゃない!」

 

 沙織は自分たちに目を向けない折尾の態度が、まったく解せないようだった。これに折尾が、やはり背中を向けたまま――つまり振り向きもせず、沙織たちに応じた。

 

「……き、君たちが立腹するのは、まあもっともだと思うが……☁」

 

 折尾の口調は、なんだかとても歯切れが悪かった。

 

「立腹? いったいなんですの? わたしは当たり前のことを言ってるんですよ♨」

 

「……じゃあ、はっきり言おう☛」

 

 それでも憤懣いっぱいそうな沙織に、今度は意を決したかのようにして、折尾がズバリと言い切った。

 

 やっぱり背中を向けたままで。

 

「……せ、せめて、シルフの彼女に、服を着させてくれぇ! いくらなんでも裸のままなのは……その……なんて言うか……まずい!」

 

「泰子ぉ! 服っ! 服ぅっ!」

 

「きゃあーーっ! またこんたらやっちまっただぁーーっ!」

 

 つまり風から人の姿に戻ったまま。泰子はここでも、また着衣を忘れたわけ。シルフにはいったい、学習能力というモノが無いのだろうか。

 

「あんが、あてこともねー!」

 

 そこを浩子も大慌て。地面に散らばったままである親友の衣服を、急いで自分の両足のかぎ爪で拾い集めた。それから羽根を広げて宙へと舞い上がり、慌ててしゃがんだ泰子の背中に、上からバサッとかけてあげた。さらにそのまま、キャラバン隊の真上を飛び回る。

 

「あじょうだぁ! わたしはこうやって空飛べるべよぉ! だっけんが偵察っとかなんかにずんねぇ役に立つっぺぇ! だけんが泰子ばっかり見てねえで、このあたしも見てぇ!」

 

 親友を史上最大の危機から救い出そうとしてか、健気にも必死の様子で、空中から浩子がわめき立てた。

 

 もっとも、時すでに遅し。

 

 帆柱も折尾と同じで、いち早く泰子に背中を向け(馬体ごとなので、かなりに大掛かり)、なんとか難を逃れていた(?)。しかし孝治は手遅れだった。

 

「こ、孝治っ! 鼻血出てるっちゃあ!」

 

「うわっち!」

 

 元男の女戦士は友美からちり紙をもらって、自分の鼻に詰め込んだ。

 

『あ〜あ、情けなかぁ☠ あたしと自分の裸には、もう慣れっこになっとうはずっちゃのにぃ……☹☹』

 

 もはや涼子の苦言など、聞いている余裕すらない有様。

 

 またふたりの部下――場那個と雨森が思わぬ目の保養でニヤついて鼻の下を伸ばしている横では、隊長の折尾が紫の両目を、いまだに閉じているままでいた。それからいかにも不承不承そうな口振りで、完全慌て状態でいる沙織たちに言った。

 

「……も、もういい、わかった☠ 君たちが有能なのは、充分以上にわかった☁ グリフォンを帰す場所まで同行していいから……あくまでも護衛としてだけどな……★」

 

「ほんとですか! やったぁーーっ♡」

 

 それこそいまだ泰子が裸だというのに、沙織は早くもそれを忘れたかのよう。この場で飛び上がって、全身で喜びを表現した。さらにドサクサまぎれで、帆柱にも飛びついた。

 

「良かったぁーーっ♡ これでわたしたちの旅の目的が果たせるわぁーーっ♡」

 

「目的? なんですか……それ、わわっ!」

 

 ケンタウロスの戦士の疑問には答えず、沙織は思いっきりの勢いで、帆柱の上半身にしがみついた。これで沙織にもう少しの余力があれば、きっと接吻(^ε^)-Chu!!{キス}まで行き着く展開になったかも。

 

 そんなふたり(沙織と帆柱)の戯{たわむ}れ合い(?)を、美奈子が冷やかな目線で見つめていた。

 

「沙織はんは東京の女子大生やと聞いてはったんどすが……まあ、あんまし落ち着きのあらへんお方どすなぁ♠ これでは先が思いやられはると言うもんどすわ♐」

 

 また弟子の千秋も当然ながら、師匠に同意的であった。

 

「まったくやで☠ あれで店長はんの従妹やなんて、冗談抜きで全然思えへんわ☛☻」


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