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『剣遊記11』

第三章 旅の恋は一途。

     (18)

「はあ?」

 

 これにはさすがの美奈子も、瞳を白黒。口をアングリの有様でいた。

 

「……あのぉ……うちがなんかしはったんかいな?」

 

 なにがなんだか、てんでわからないご様子の魔術師であった。しかし折尾のほうは、大層ご立腹の模様。豹顔からもろ、牙がもろ剥き出しとなっていた。

 

「魔術の実力を見せるのもええが、だからと言って誰が木を焼いてええっち言うたぁ! 今焼いた木だって、高が魔術の腕を見せるために何十年も育ってきたわけじゃないんだぁ! それに今の木を生活の場にしてる山の動物たちは、これからいったいどうやって生きてけばいいんだぁ! とにかく自然破壊はずえったいに許さぁーーん!」

 

「あ〜〜ん! ごめんなちゃいですうぅぅぅ☂」

 

 ここでなぜだか、美奈子の代わりだろうか。千夏が泣いて謝りだした。

 

「う〜ん? これって涙の代行け?」

 

 孝治は思った。いつも澄まし顔で高慢な性格の美奈子が、ここですなおに謝罪など、やらかすはずがなか――と。もちろんこれは、一番弟子である千秋も同じ。そこで二番弟子の千夏が、代理で頭を下げたってところだろうか。

 

「ま、まあ……わかれば……よろしい☁」

 

 千夏の大きな瞳――それも涙混じり(あとで考えたら、どうも目薬を差したような気もする?)の陳謝に迫られたせいか、折尾が振り上げた拳{こぶし}を、案外と簡単に引き下げた。自然を破壊した張本人(?)は、ちっとも反省の態度を表わしてはいないのだが。

 

「な、なんですのや? 言いはってることが全然わからしまへんわ☠」

 

 それよりも一見生真面目そうに、さらに女性を目下にしているようにも見える折尾であるが、どうも幼女(?)の甘えには、とても弱い性分なのかもしれなかった。それを証明するかのように、あっさりと問題を締めにしてくれた。

 

「こ、今回だけは、まあ大目に見てやる☁ 以後、気をつけるようにな☁」

 

「はいですうぅぅぅ☀☀」

 

 千夏が明るさいっぱいの返事(涙はどげんした?)を戻したのに対し、美奈子と千秋のほうは、今もって澄ました顔のまま。それから相変わらずで、例の高慢ぶりを発揮してくれた。

 

「とにかくこれで、うちの実力はわかっていただけましたどすえ✌」

 

 これに折尾は折尾で、ヘタれた返事を戻していた。

 

「……うう、まあいいだろ☁ と言うことで、これからも護衛を頼む☁」

 

 これまた孝治は思った。

 

「ノールのおっさん、ここでヘタに断れば、今度は自分が魔術で吹っ飛ばされるっち考えたっちゃね☆」

 

 友美も孝治に応じてくれた。

 

「確かに折尾さんって、魔術にあんまし慣れてないみたいっちゃねぇ☝ 初めはいきなり怒鳴ってわたしもビックリしたっちゃけど、実はちょっと怖気づいてるとこが、言葉の端々からにじみ出よんやけ☛」

 

 孝治も友美も、これでけっこう辛辣な者同士なのだ。

 

「うっわあーーい☀ これでやっとぉ、美奈子ちゃんもぉ千秋ちゃんもぉ千夏ちゃんもぉ、ごいっしょにお山さんに行けますですうぅぅぅ☀」

 

「千夏、大手柄やで♡」

 

 (やっぱり嘘泣きだった)千夏が、ここで思いっきりのはしゃぎよう。姉の千秋から、頭を撫で撫でされていた。これに感化されたわけでもないだろうけど、今度は沙織たちが、折尾の前に出てきた。

 

「さっ、お次はわたしたちの番よね✈ 泰子に浩子、準備はいいかしら?」


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