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『剣遊記11』

第三章 旅の恋は一途。

     (17)

 だけどもちろん、問題自体が、これで収まるはずはなかった。

 

「うちと千秋と千夏も待機組なんどすかぁ! それは承知でけへん話やわぁ! うちらにも目的というものがあるんどすえ♨」

 

 当初から予想をしていたのだが、女性陣に居残りを言い渡したとたん、案の定であった。美奈子が先頭に立って、折尾に不服を申し立てた。おまけに沙織たち三人組だって、負けてはいなかった。

 

「せっかく遠路はるばる福井まで来たのよ! それが今になって危ないから里に残れって言われても、全然納得できないわよ!」

 

 沙織と美奈子の言い分は、それぞれ微妙に内容を異とするものだった。もっともどちらにしても、居残りを承服できない気持ちに、まったく変わりはないだろう。強い指導力でキャラバン隊を引き連れている折尾であるが、この女性陣のド迫力には、いささか困り果てている様子でいた。ヒョウの顔面でありながら、明らかに冷や汗😅たらたらの状況でいるのだから。

 

「……そ、そこまで同行を希望するなら、君たちにいったいなにができるのか? いっぺん見せてくれ☞ 言ってはなんだが、自力で山賊と渡り合えるほどの実力がありさえすれば、この先同行することは構わんのだが……☁」

 

 押されに押されまくったあげくであった。折尾がついに、苦しまぎれの妥協案を口走った。無論、『実力公開』の四文字さえ勝ち取れば、あとは美奈子たちの思うツボ。

 

「今の時点で、折尾さんの負けっちゃね☠」

 

 孝治はこっそりとつぶやいた。

 

「はい♡ 喜んでお見せいたしますえ♡ では、そこで指でもくわえて、そおろと御覧になってくださいませ♡」

 

 黒衣の魔術師――美奈子が、やはりと言うか、胸を張って折尾に応えた。

 

「皆はん、そんなり少々、そこをおどきになってくれまへんか♐」

 

 それから固唾を飲んで見守る聴衆(とは言ってもここにいる面々は、キャラバン隊のメンバーだけ)を、やや離れた地点まで後退させ、美奈子自身はなにやらぶつぶつと、小声での呪文詠唱を始めていた。

 

「あの呪文やったら、もう一種の定番ちゃね☞ 美奈子さん、『火炎弾』の術ば仕掛ける気っちゃよ✌」

 

 魔術の蘊蓄にくわしい友美が、孝治の右横で、そっとささやいた。

 

(そんくらい、おれだってもうわかるっちゃよ✍)

 

 孝治は声には出さずに内心で、友美に応じてやった。それから多少ではあるが、知ったかぶりも披露してみた。

 

「まあ、魔術の威力ば見せつけるんやったら、それがいっちゃん打ってつけっちゃけねぇ✌」

 

 そんなふたり(孝治と友美)の瞳の前だった。美奈子が前方に向け、かざしている両手の手の平から、お待たせしましたどすえで、人頭大の炎の塊をボワンと噴出させた。

 

 それが狙い違わず、ゴバァァァァァァッ! ボワッガアアアァァァンと、真正面にそびえていた大木を、一瞬にして粉砕!

 

 ベキベキベキィィィィッッと轟音を響かせ、見事に倒壊させた。

 

 周辺一帯に埃と粉じんが舞い散る中、美奈子はまさにドヤ顔。たぶん胸に込み上げている天狗の思いを、ジッと堪えているのだろう。それからなかば呆然としている折尾に向かって、いかにも得意気で言い放っていた。

 

「ほほっ♡ どないどすえ♡ こないなりはっても、うちらが足手纏いになりますかいな?」

 

「…………」

 

 初めは美奈子に、即答のできなかった折尾であった。ところがやがて、ツバをゴクリと飲んだ音がしたあとだった。突然声を張り上げての大絶叫をやらかした。

 

「ぶぅあっかもぉーーん! もっと自然を大事にせんかぁーーっ!」


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