『剣遊記11』 第三章 旅の恋は一途。 (13) 「帆柱さん! わたしうれしい♡☀!」
沙織はたちまち、有頂天の極み。このため一時的ではあったが、抜群なはずの運動神経と反射神経を物の見事、両方失う結果となった。
「あら?」
こうなれば、定番の展開。沙織は両足を踏み外し、帆柱の背中からドスンと転落。
「きゃあーーっ!」
浴場の硬い石板の上に、見事な尻餅をつく有様となった。
「大丈夫ですか! 沙織さん!」
『君』から『沙織さん』へと、再び元に戻ってはいた。だけどこの際、その問題はどうでもよし。すぐに体位を下げて助け起こそうとした帆柱に、沙織がひと言、ポツリとささやいた。
「揉んで♡」
「えっ?」
帆柱の両目が点になった。そんな帆柱の顔を見てクスッと微笑みながら、沙織は妖しい挑発を続けた。
「腰を打っちゃったから、揉んで♡ お願い♡」
「……わ、わかりました♠」
帆柱はこれにて、全面降伏。沙織の完全勝利であった。
もちろん本当に敗北を実感しているわけではないが、それとは関係のないところで帆柱の顔面は、まだまだ赤味を帯びていた。その理由は、次のごとく。
「痛い所ばもんで差し上げますんで……そん代わりにですねぇ……☁」
「そん代わりに……なぁ〜に?」
沙織は帆柱から、夢の『お姫様だっこ♡』をされていた。そんな夢見心地の状態で、沙織が甘えと余裕の仕草のまま、ケンタウロスの帆柱の顔を、下から眺めるようにして覗き込んだ。
その帆柱が言った。赤い顔をして。
「……せめて、体ばタオルで巻いてくれませんか? さすがの俺かて限界が近いとですから……☁」
「あらぁ? ごめんなさぁ〜〜い♡」
沙織はけっきょく、帆柱への熱愛攻勢中、ずっと下着だけの姿で押し通していた。もっとも帆柱のほうが完全に裸だと言えば裸になるのだが、こちらは体の半分が馬なので、あまり刺激的な格好だとは言えないであろう。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |