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『剣遊記11』

第三章 旅の恋は一途。

     (11)

 この間にもふたり(帆柱と沙織)のもだえ声(?)は、途切れずに続行中でいた。

 

「ああ……もう一回♡ そこんとこぉ……♐」

 

「よっしゃあ! 任せんねぇ!」

 

「先輩……凄かっちゃねぇ☆」

 

 これはさすがに帆柱先輩らしい豪傑ぶりやと、孝治は思わずつぶやきながらで感心した。

 

 それはそうとして、孝治、泰子、浩子の三人は、あまりにも浴場出入り口の扉に、全身を寄りかからせ過ぎていた。これは浴場での本番中(?)に、つい夢中になった結果であるわけだが。

 

「ちょ、ちょっとぉ! 扉がひん曲がりようっちゃよぉ! 少し下がらんと危ないちゃあ!」

 

 友美の忠告も遅すぎた。三人(孝治、泰子、浩子)の合計体重に抗し切れなかったのだろう。扉がとうとうメッキメキメキメキメキッバキィッと浴場側に外れて、ドシーンと倒れる顛末となったしだい。

 

「きゃあっ!」

 

「あいーーっ!」

 

「うわっちぃーーっ!」

 

 浩子、泰子、それからもちろん孝治の三人が、そろって扉ごと、いきなり浴場内へと倒れ込んだ。

 

「きゃあっ! 泰子に浩子ぉ!」

 

「こらぁ! 孝治までなんしよんやあ!」

 

 中にいた沙織と帆柱も、思いっきりの驚天動地をしていた。

 

「あ痛たたたたたたっ☠」

 

 浴場まで来ていながら、孝治は鎧を着用したまま。おかげでかすり傷ひとつ負わずに済んだ。ただし、孝治の上から泰子と浩子が圧し掛かっているので、合計ふたり分の下敷きになっていた。だけど、それよりももっと驚くべき事態が。

 

「なにやってんのよ、あなたたちは……★」

 

 風呂場に突然の闖入者が現われたと言う珍事に、沙織はもろビックリの顔。もっとも、もともと泰子と浩子がいたことは、沙織自身が知っていたのだが、しかし孝治の登場は、予想外であったろう。それでも沙織は湯船の脇で腹ばいの姿勢を崩さないまま。帆柱から肩揉みの奉仕を受けている最中であったのだ。

 

 しかも無論、裸ではなかった。孝治は知らないが初めに浴場に現われた格好のまま、きちんと胸から腰まで、バスタオルを巻いた姿でいた。

 

「うわっち!」

 

 また孝治もそこまで聞いていなかったが、下着もちゃんと着用済み。あとで泰子と浩子からその辺のところを教えられ、孝治はどんなにか安堵(なにを?)をしたことだろうか。

 

 その沙織が、見事にほっぺたをふくらませた。

 

「なによ♨ せっかくいい気持ちで帆柱さんから按摩マッサージをしてもらってるってのにぃ♨ いいとこで邪魔なんかしないでよぉ♨」

 

「孝治……おまえもいったい、なんしに来たっちゃね?」

 

 帆柱のほうは怒っているというよりも、完全な呆れ顔となっていた。

 

「お、お、おれはですねぇ……☁☂☃」

 

 孝治は弁解の行使に、思いっきり苦しい気持ちとなった。

 

「……お、おれは……先輩と沙織さんが……そのぉ……もしかしてそーとードエラかこつなっとんやなか……っち、その心配してもうて……そんで来てみたら、なんすか、これは?」

 

 これに帆柱が、強気丸出しで返してきた。

 

「なんでんなか! 沙織さんがちょっと腰ば打ったもんやけ、俺が按摩ばして治してやりようとばい!」

 

「腰ば打った……とですか?」

 

 孝治は自分の頭上に、何個もの『?』が旋回するような気になった。


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