『剣遊記T』 第四章 旅の始まりは前途多難。 (2) 部屋を出て、孝治は友美と涼子のふたりと、すぐに合流。それからふたりを、店の正面出入り口に急がせた。
美奈子と千秋の依頼人師弟が、そこで待っているはずなので。
「ちょっと先行っといてや☞✈ 店長から旅の路銀ばもらってくるけ⛣」
「早よ行ってきや⛴ 護衛がお客さんば待たせるなんち、いっちゃん失礼なことやけね✐」
友美の忠告は、もっともな話。それでも孝治には、出発前になんとしてでも済ませておかないといけない重要な用件――路銀の調達があるのだ。
旅の道中の必要経費として、“路銀{ろぎん}”と称される小遣いがある。未来亭ではそのお金はすべて、黒崎店長からの前借り制となっていた。
しかも金額は初めの交渉しだいで、増減に大きな差があるのだ。そのために孝治は気合いの入れ方が、ふだんとは大きく――かつ、まったく違っていた。
「毎回思うとやけど、仕事の依頼人がみーんな太っ腹で、おれたちの経費ばぜーんぶ面倒みてくれたら、おれも店長に頭ば下げることないっちゃけどねぇ☃」
これこそ孝治の胸に日頃から蓄積している、偽らざる不満であり本音であった。 (C)2010 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |