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『剣遊記T』

第四章 旅の始まりは前途多難。

     (2)

 部屋を出て、孝治は友美と涼子のふたりと、すぐに合流。それからふたりを、店の正面出入り口に急がせた。

 

 美奈子と千秋の依頼人師弟が、そこで待っているはずなので。

 

「ちょっと先行っといてや☞✈ 店長から旅の路銀ばもらってくるけ⛣」

 

「早よ行ってきや⛴ 護衛がお客さんば待たせるなんち、いっちゃん失礼なことやけね✐」

 

 友美の忠告は、もっともな話。それでも孝治には、出発前になんとしてでも済ませておかないといけない重要な用件――路銀の調達があるのだ。

 

 旅の道中の必要経費として、“路銀{ろぎん}”と称される小遣いがある。未来亭ではそのお金はすべて、黒崎店長からの前借り制となっていた。

 

 しかも金額は初めの交渉しだいで、増減に大きな差があるのだ。そのために孝治は気合いの入れ方が、ふだんとは大きく――かつ、まったく違っていた。

 

「毎回思うとやけど、仕事の依頼人がみーんな太っ腹で、おれたちの経費ばぜーんぶ面倒みてくれたら、おれも店長に頭ば下げることないっちゃけどねぇ☃」

 

 これこそ孝治の胸に日頃から蓄積している、偽らざる不満であり本音であった。


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