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『剣遊記T』

第四章 旅の始まりは前途多難。

     (1)

 一夜が明けて、朝になった。

 

 美奈子と千秋の旅の目的地は、九州の南端――鹿児島市。護衛で同行する孝治と友美にとっては、それほど長くて厳しい道のりではなかった。

 

 検問通過が困難とはいえ、同じ九州――要するに陸続きであるからだ。

 

 旅立ちの準備は着替えなどの小荷物や、最低限の武器の類。野営用の簡易毛布などを背負い式の牛皮袋でまとめれば、だいたいの出来上がり。夜間の必需品である角燈{ランタン}も、雨で濡れないように全体を油紙で包み、袋のヒモに結んでぶら提げる格好。

 

 燃料の油が少々高価なのが、玉に瑕{きず}であるけれど。

 

なお、身軽だった前回の耶馬渓行きと違って、今回はそれよりも遠出である。これくらいの準備は、必要最小限の範疇であろう。

 

 もちろん戦士の命であり魂でもある剣は、鞘に収めてベルトにしっかりと装着した。

 

 これがなければ話が始まらない――というものだ。

 

 孝治はこれらの準備を、自室で黙々と行なった。隣の部屋では、友美も荷物の準備をしているはずである。ただしそこは女の子。きっと着替えが多いことだろう。孝治もそのはずだけど。

 

 さらに友美は魔術師であるから、魔術道具などもきちんと所持をしないといけない。もっとも友美は小道具を扱うよりも、両手の動作などで魔術を行なう場合が多かった。そのため他の同業魔術師と比べれば、魔術関係の荷物は少ないほうだといえた。

 

 ついでに涼子は幽霊なので(現在友美の部屋にお邪魔中)、荷物に関してはまったくの問題外。それこそ身ぐるみひとつない、完全真っ裸なのだから。


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