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『剣遊記番外編T』

第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。

     (8)

 初めは夢を見ているような気持ちだった。美奈子はボンヤリと、山賊親分が倒れる光景を眺めていた。それでもやがて、意識と体力が回復。すると美奈子の両方の耳に、ふたり分の明るい声音が響いてきた。

 

「師匠! 無事かいなぁ!」

 

「美奈子ちゃぁぁぁん! 大丈夫さんでしゅかぁ?」

 

「千秋に千夏ちゃん!」

 

 双子姉妹が避難をさせていた洞窟の中から、勢いよく飛び出したのだ。しかもさすがに、千秋はこの時点においても、気丈に振る舞う力強さがあった。だけど千夏のほうは、もろに泣きベソ顔でいた。

 

 その千夏が一番に美奈子の元へ駆けつけ、裸の胸に飛び込んできた。

 

「美奈子ちゃぁぁぁん! おケガがなくて良かったさんですうぅぅぅ! でもぉ、どうしてぇまたぁ裸さんになっちゃったんですかぁ?」

 

「あ……こ、これは、どすなぁ……!」

 

 改めて自分の現在の状況を認識して、美奈子は顔が真っ赤の思いとなった。それから慌てて、双子に事情を説明。ふたりとも、すぐに納得してくれた。

 

「なぁ〜んや、山賊のアホどもは、師匠が簡単に片付けてしもうたわけやな✌ 千秋もなんかしたかったでぇ✊」

 

 千秋は自分の活躍が少なかった話の展開に、少々物足りんわ――と言いたいような顔をしていた。

 

「そう言うことどすえ、でもぉ……✃✁」

 

 美奈子は倒れている鱏毒に顔を向け、まさか――あるいはもしやと思い、千秋に尋ねてみた。

 

「あいつにあない大きな石投げはったんは、いったい誰なんやろっかねぇ? ここにはもう男衆はおらんでうちとあなたたちしかおらへん言うのに……まさか、や思うんどすけど……千秋なんどすか?」

 

「ちゃうねんな✋ 千秋やのうて千夏やねん⛳」

 

「へっ?」

 

当の千秋の意外すぎる返答で、美奈子は一瞬だが、瞳が点の思いがした。それからとっさの行動で、千秋の真面目そうな笑顔と、自分の裸の胸に鼻をうずめている千夏と、さらに転がっている岩石とを見比べた。

 

その石の大きさは、どのように見ても大人の頭のふたつ分はあった。また重量も、かなりのシロモノであろう。それを――少々野生児的な千秋なら納得がいくにしても、明らかにか弱そうな千夏が投げたとは、とうてい信じられないものがあった。


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