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『剣遊記番外編T』

第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。

     (7)

 また、衝撃波が吹き荒れた跡も、無残極まる有様だった。

 

 大木が何十本も薙ぎ倒され、地面が地中深く、すり鉢状にえぐられていた。

 

 事情を知らない後世の人々がこれらの惨状跡地を発見したら、ここを隕石が落下した痕跡だと誤解をしそうなほどに。

 

「ふぅ……☁」

 

 とにかく一世一代の攻撃魔術をお見舞いしたあとなのだ。さすがの美奈子も、全身疲労困憊の状態となっていた。

 

 おまけに着ていた黒衣が、切れ端一枚残さずに、ちぎれ飛んだ状態。野外で全裸となった美奈子は、自分が掘った大穴の前で、フラフラと地面に膝をつけた。

 

 早いうちに、なにか着る物を探さないといけなかった。だけど今は魔術はおろか、指一本動かすことさえ、非常にしんどい状況なのだ。

 

 そんな状態でいる美奈子に、背後から大きな影が忍び寄った。

 

 鱏毒だった。

 

「……て、てめえ……ようも弟をやってくれよったのぉ……♨」

 

「!」

 

その声に美奈子は、声も出せないままで振り返った。見れば鱏毒の両眼は、頂点に達しているらしい怒りで、真っ赤に充血しきっていた。

 

さらに右手で握っている斧までが、ブルブルと小刻みに震えていた。

 

それでも鱏毒は、能書き垂れをやめなかった。

 

「……しかも、俺が三年かかってやっとここまで築いた俺様の一家を、たった一日{いちんち}でもじけてくれてからにぃ……殺しちゃるぅ……☠」

 

「あ……あ……!」

 

呪詛の言葉を口から垂れ流ししながら、斧を高く持ち上げる鱏毒。もはや山賊親分の頭の中は、完全に狂気が支配しているかのようだった。それなのに、疲れきっている美奈子の体は、這ってでも逃げようとする気力さえ、今やカケラも残されていないのだ。

 

「おんどれのタマ取ったるわぁ! 死ねやぁーーっ!」

 

「きゃあーーっ!」

 

だが鱏毒が、美奈子の脳天を狙って、今まさに斧を振り下ろそうとした寸前だった。

 

ボゴッと山賊親分の後頭部に、大きめの岩石が激突した。

 

「あんがっ……」

 

鱏毒は白目を剥き出し。ズドドドォォォンと地響きを立てて、仰向けの格好で地面に崩れ落ちた。


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