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『剣遊記番外編T』

第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。

     (4)

「この下郎どもがうちらを裸にしようなどと、けったくそ悪いこと言いはるもんやさかい、反対に裸にしてあげもうしたんどすえ! 最後の一枚を残したんは、せめてものお情けでおますんや!」

 

 本当は、野郎のイチブツなど気色悪うて見たくもおまへんわ――が本音である。だけどもその本心は、あえて隠しておく。とにかく美奈子は山賊相手に、ここぞと大きな啖呵を切ってやった。

 

 だが舐木野は、別の方面で当惑をしていた。

 

「な、なんでやねん? お……おめえら、どないしてオレの魔術の紐を解いたんや? おめえらを縛った紐は、オレの魔術で絶対にでんでん切れへんようにしてあったんに……✁✃」

 

「さあ、どないしてなんやろうなぁ✄☻」

 

 ここで美奈子は、いったんとぼけた振り。それからしゃあしゃあと、ある程度予想していた考えをぶち撒けてやった。

 

「これはうちの推測なんどすけど、こないな感じやおまへんか? おまいさんは魔術戦士を気取ってはるんやけど、本当はどちらはんの腕前も中途半端とちゃいまんのかいな?」

 

「ぎくぅっ!」

 

 舐木野の顔面が、さらに青みを強めていった。そこを美奈子は、情け容赦なく攻め立てた。

 

「よくいらはるんどすよねぇ〜〜☻ 魔術戦士になりとうて、戦士と魔術師を両方修行しはるんどすが、どちらはんも挫折して、けっきょく両方そこそこの能力はあるんどすけど、腕前がプロには遠く及ばへん、ってお人がやねぇ☛ そやさかい、うちらを縛った紐が早めに切れてしもうたんも、魔術の効力が格段に低かったからやとうちは思いますわ☝ そういうことやさかい、これからはこないに一見頑丈そうやけど安モンのお紐やのうて、もともとから丈夫な紐をお使いになることをお薦めいたしますえ☢ うちら女性の力で呆気のうちぎれるようなシロモンやのうてやね☀ これは自分の力を過大に過信しなはった、あなたはんの大きな失敗でおますんやで☠」

 

 美奈子の長い解説に、周りの山賊たちも、一様に聞き耳を立てていた。やがてその中のひとり――子分Eが、明らかに疑いの眼差しで、舐木野に顔を向けて言った。

 

「そりゃほんまなことでっか? 兄貴ぃ……☁」

 

「ぐぐぐっ……☃」

 

 舐木野がくやしそうにくちびるを噛む態度こそ、質問に対する返答であり、真実の証明となっていた。

 

「それがどないしたっちゅうんやぁ!」

 

 兄の鱏毒が、苦渋に満ちている弟に代わって吼え立てた。

 

「魔力が劣るからや言うて、魔術師の端くれに変わりはないんやぁ! だいたいおまえかて、弟の魔術に見事負けちまったやないかぁ!」

 

 しかしこれでは、ほとんど負け犬の遠吠え。だから美奈子は余裕しゃくしゃく。決して一歩も引き下がらなかった。

 

「そうどす! 一度は油断して負けましたさかい、でも二度目はありまへんのやでぇ!」


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