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『剣遊記番外編T』

第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。

     (3)

 このような、つまらない話題で盛り上がっているうちに、一味は目的である本拠地の木造小屋に到着――と、その前は素通り。全員まっすぐに、洞窟へと足を向け直した。

 

「さて、傷が少しばかし付いてもじけてる(和歌山弁で『壊れてる』)やろうけど、俺たちも味見させてもらおうかいのぉ☻」

 

 洞窟の前に立つなり、鱏毒は右手に持っていた新品の斧を地面に置いた。それから自分が先頭となり、洞窟に入ろうとした。

 

その直後だった。

 

「あひぃーーっ!」

 

「ぎゃあーーっ!」

 

中からいきなり、ふたつの人体が飛んできた。おかげで鱏毒の顔面と、もろにガツンッと、正面衝突をしでかした。

 

「うぎゃあっ!」

 

それでもさすがに山賊の親分なだけあって、鱏毒はなんとか、足を踏ん張らせて持ち堪えた。いわゆる仁王立ちで、親分の体面を守り抜いたわけ。しかし、足元にドサリッと落ちた者は、そのままピクリとも動かなかった。それもよく見れば、見張りをしていた蛾羅と義幽のふたり。しかも彼らふたりは、なぜか衣服を脱がされた格好。ふんどし一丁の、実にみっともない姿にされていた。

 

「な、何事やあっ! わぷっ! ち、血やあっ!」

 

ぶつかった衝撃で、鱏毒の鼻から赤い血が垂れてきた。これにて体面は、呆気なく丸潰れ。おまけに他人の血ならばとにかく、鱏毒自身は自分の流血に弱かったのだ。そんな兄に代わって、弟の舐木野が地面に転がっているふたりに向かって怒鳴りかけた。

 

「お、おめえらぁ! 女を見張っとったんとちゃうんかい!」

 

しかし蛾羅も義幽も、完全に気絶の状態。サングラス男の怒声にも、ウンともスンとも応えなかった。その代わりでもないだろうけど、洞窟の奥から、いかにも勇猛そうな女性の声が鳴り響いた。

 

「そいつらは私が成敗しましたんえーーっ!」

 

その次の瞬間、今度は気合いの入った掛け声が轟いた。

 

「はあっ!」

 

「なにぃ!」

 

舐木野はすぐに、洞窟の奥から吹いてくる、巨大な風圧を感じ取った。

 

「ちいっ!」

 

間髪を入れずに脇へと避け、舐木野は巨大な風圧を右横にかわした。だがその代わり、真後ろにいた子分が二十人。逃げる間もなく、飛んできた暴風で吹き飛ばされた。

 

「わわわあああぁぁぁーーっ!」

 

事態がまるで把握できていないうちから、早くも一味の中の五分の二が、一丁上がりとなったわけ。

 

「……ま、まさか……もうなんか?」

 

舐木野の顔面から、瞬く間に血の気が引いていった。そんなサングラス男に向け、まるで引導を渡すかのようだった。

 

「その『まさか』どすえ!」

 

洞窟の中から、美奈子と千秋と千夏が現われた。

 

三人とも魔術の紐による戒めから解放され、とっくに自由の身となっていた。


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