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『剣遊記番外編T』

第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。

     (2)

「けけっ♡ 見えてきよったで! 御馳走のある洞窟がやで……☆」

 

 山賊どもが、三人の女性を閉じ込めてある洞窟の前に勢ぞろいした。

 

「蛾羅{がら}と義幽{ぎゆう}のやつ、言われたとおりおとなしゅう、先に手ぇ出ししてなかったらええんやけどなぁ☢」

 

 子分Dの言う蛾羅と義幽とは、洞窟に幽閉してある美奈子たちの監視を命じているふたりのこと。当然の話ながら、そのふたりが辛抱強く――女に手を出さずに――待っているとは、山賊の誰ひとり思ってはいなかった。必ずや、つまみ食いの一回や二回。絶対強行しているに違いない。

 

 そのような子分どもの本性など、親分である鱏毒も、とっくに心得済みとしていた。

 

「へん、そんときはそんときやで☻」

 

格好だけの心配をしている手下どもに、鱏毒は薄ら笑いを浮かべて応じてやった。

 

「ちょっとばかしあいつらが手ぇ出したからや言うて、女の体が減るもんやなかろうが☝ それにもしそうなってたからや言うたかて、そんときはあとで蛾羅と義幽に、それなりの罰をしてやりゃあええことやねんな☻☠」

 

けっきょく鱏毒も、同じ穴のムジナである。おのれの子分がとびっきりの女性を目の前にして、ジッと我慢を続けられるなど、これっぽっちも考えてはいないのだ。それに蛾羅と義幽に監視を命じた理由は、鱏毒流の意地悪な意味合いもあったわけ。

 

飢えた状態で鎖に繋いでいる犬の前に、極上の肉の塊を見せびらかしてやるような感じで。


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