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『剣遊記番外編T』

第三章 魔術師と姉妹、三人の旅立ち。

     (1)

 真新しい山刀や曲刀などの武器を各々構えた鱏毒一味が、およそ五十人。意気揚々と深い山中の獣道をかき分け、彼らの本拠地である山の隠れ家へ向かっていた。

 

目指すは深山の奥にポッカリと開いた、それなりに面積のある広場であった。しかもそこには粗末ながらも、木造の小屋が一人前に建ててあるのだ。

 

美奈子と双子姉妹を幽閉している洞窟は、そのすぐそばにそびえる崖に、大きな口を開いていた。

 

「親分、万一に備えて武器をぎょーさん用意しとくっつうのは、ほんまええことやのしー☆」

 

子分Cが、いかにも上機嫌そうな鱏毒の顔を見上げ(鱏毒はけっこう身長が高い)、定番の揉み手をやらかしながら、ベタベタとゴマをすっていた。

 

このお調子者のべんちゃらに応えて、鱏毒の気分も快調そうだった。その鱏毒の右手には、これまた真新しいピカピカの斧が握られていた。

 

「おうよ! 俺がいつも言いよるやろ✍ 『備えあれば憂いなし✌』ってやつやで✎ そやさけぇ、万一の場合に備えて、別ん場所に隠し武器を貯めといて良かったやろ♡ へへへっ♡ 村のてきゃら、俺たちから武器をいっかど(和歌山弁で『たくさん』)取り上げたつもりやろうが、これを見たらぎょーさんビックリして腰抜かすやろうぜ✋」

 

昨日、美奈子から完膚なきまでに叩きのめされたあと、山賊団は村の者たちから、剣や刀などの武装の類を、すべて完全に没収された。

 

ところが彼らは、山中の違う場所の洞窟に、さらに大量の武器を隠し持っていたのだ。

 

たとえ一時的に敗北したとしても、すぐに逆襲に取りかかれるようにと。

 

お調子者の子分Cが、さらに揉み手を続けた。

 

「それと、舐木野の兄貴がちょうど帰ってきてくれたことと重なったことも幸いやったでんなぁ☀」

 

「ふふん♡ 兄さんの危機一髪に、絶好のタイミングやったってことだけやね☆」

 

話を振られたサングラス😎の舐木野が、兄(鱏毒)の右横を並んで進みながら、鼻を鳴らしてニヤついた。

 

こいつはこいつなりに、あくまでも伊達男を気取っているらしい。しかしあいにく、周りにいる者は皆、むさ苦しい山賊野郎ばかりである。だから自然と、この場では大きく浮いたような存在となっていた。

 

「村の襲撃には、オレもひと役買{こ}うちゃるんや☢ 火炎弾で村を焼いちゃるもんね☠ 兄さんに恥をかかせた連中を、オレは絶対許さへんのやぁ!」

 

麗しくもゆがみきった、山賊の兄弟愛であった。

 

ここで兄の鱏毒が、気合いの入った掛け声で吼えた。

 

「よっしゃあーーっ! 村を襲う前祝いに、あの忌々しい女魔術師と小娘ふたりを、今夜は好き放題にしてええでぇーーっ! これは俺のおごりなんやからなぁーーっ!」

 

「うおーーっ!」

 

「親ぶぅーーん! 最高やでぇーーっ!」

 

山賊どもが一斉に、よだれ混じりの雄叫びを上げた。もはや美奈子と双子姉妹は、彼らの御馳走扱い。もっともこのような野蛮極まる連中だからこそ、三人の女性(内ふたりは幼児だと思っているだろう)は滅多にお目にかかれない、極上の豪華料理に違いないのだ。


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